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新聞掲載記事

更新:2007/08/30

判例解説~機能的クレームの権利範囲~

 今回は、機能的クレームの権利範囲の解釈についての判決(感知式耐震ラッチ事件:東京地裁平成18年10月11日判決)を解説致します。

 まず、機能的クレームについて語る前に、特許法についての基礎知識、とりわけクレームについて確認しておきます。特許権は排他的独占権という強力な権利です。そのため、その権利範囲を明確にしておく必要があります。
 この点、特許法は70条1項で「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と定め、その権利範囲を「特許請求の範囲」(これを実務では「クレーム」と呼ぶ)に限ることにしています。ただし、同条2項は「前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」とも定めています。

 ここで、機能的クレームとは、機能的、抽象的な表現で記載されたクレームのことです。例えば、電球の発明で説明すると、電球の具体的構成を記載するのではなく、「部屋を明るくする発光体」というように発明の目的や作用効果を述べたにとどまるクレームのことです。このような機能的クレームの権利範囲がどこまでかが問題となります。これを明確にしておかないと、特許権者から許諾を受けていない第三者は安心して製品を製造・販売できないからです。

 この点について今回の判決は、「特許請求の範囲に記載された発明の構成が機能的、抽象的な表現で記載されており、その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることができない場合には、明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌し、そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。具体的には、明細書及び図面に開示された構成及びそれらの記載から当業者が実施し得る構成が当該発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。」という基準を示しました。

 本判決は、機能的クレームについての従来の解釈手法を踏襲するとともに、技術思想については当業者が実施し得る構成も含むことを確認するものとなっています。先程の電球の発明の例で説明すると、特許請求の範囲が「部屋を明るくする発光体」、明細書の実施例が「電球」「蛍光灯」であった場合に、当業者が思いつかない「発光ダイオード」の発明は権利範囲に含まれないけれども、当業者ならば思いつく「長さや色の異なる蛍光灯」の発明は権利範囲に含まれることになります。
 したがって、特許権者にとってみれば、他人に安易に模倣されない強い特許とするためには、出願時に思いつく実施例を可能な限り明細書に記載しておくのが賢明だと言えるでしょう。


日本弁理士会東海支部 UR-10委員会
副委員長 弁理士 中村 繁元