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新聞掲載記事

更新:2004/05/21

マンガ喫茶は著作権侵害?

 皆さん、マンガ喫茶というものをご存知だろうか。数多くのコミックスや雑誌などを揃え、それを売りにして集客を狙っている喫茶店である。近年、全国的にマンガ喫茶が増加している。東海地区では特に増加が激しいらしい。かく言う私も大のマンガ愛好家であり、よくマンガ喫茶を利用させていただいている。
 このマンガ喫茶、1杯のコーヒーで何時間も粘られると収益に響くため、タイムチャージ制がとられているのが普通だ。そう、ほとんどの利用客は喫茶というよりも、マンガを読むことを目的としているのである。

 さて、ここで気になるのがマンガについての著作権である。マンガは、著作物であるため、コミックが購入されればその一部が著作権料となって著作権者の懐に入る。しかしながら、マンガ喫茶では、コミックを購入しなくてもそれを読めるため、著作権料が著作権者の懐に入らない。これでは著作権者は面白くない。このため、“21世紀のコミック作家の著作権を考える会”から、この問題について考えて欲しいという内容を含む声明文がマンガ雑誌等に記載された。そこで、マンガ喫茶によるコミック等の提供と著作権との関係について考えてみたい。
まず、著作権法第26条の3の条文を見てみよう。

 (貸与権)第二十六条の三 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあっては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。
 この条文では、著作権者は、その著作物を貸与する権利、すなわち貸与権を専有しているといっている。そうであれば、マンガも著作物であるから、著作権者はコミック等の貸与権も専有しているのではないだろうか。それなら、著作権者がマンガ喫茶によるコミック等の貸与を取り締まればいいだけのことで何も問題にはならない。しかし、それができない。何故だろうか。それは、著作権法付則において、上記第26条の3についての例外が定められているからである。

 (書籍等の貸与についての経過措置)第四条の二 新法第二十六条の三の規定は、書籍又は雑誌(主として楽譜により構成されているものを除く。)の貸与による場合には、当分の間、適用しない。
 この例外は、この条項が定められた当時に広く根付いていた貸し本業の業務を圧迫すること、貸し本業の存在が新書の購買量に影響するとは考えられないこと等の理由により、歴史的な背景の下に定められた。書籍又は雑誌に該当するコミック等は、ここでいう第26条の3の例外に該当し、著作権者に貸与権の専有が認められないのである。
 ところで、この例外には映画や音楽関係の著作物、例えばビデオ、DVDおよびCDは含まれていない。これは、書籍又は雑誌等と音楽関係の著作物との歴史的な背景の違いからきている。

 そもそも、貸与権に関する条項が導入されたのはレンタルレコード店の急増により、音楽関係の著作権の保護が十分でなくなったことに事を発している。客がレンタルレコード店でレコードを借りた場合、レコードからテープに音楽をダビングすることができる。レコードとテープという相違があるものの、同じ音楽を何度も聴ける複製品を作成することができるのである。こうなれば、レコードの購買量が減少し、著作権者の利益を守ることができなくなるのは明白である。
 このため、著作権者やレコード会社などの働きかけや、レコード会社などがレンタルレコード店に訴訟を提起したことなどをきっかけとして、著作権に対する問題が見直され、昭和59年に貸与権を導入した著作権法が国会で承認された。

 したがって、マンガ喫茶のようにコミックス等の貸与が広く行われるようになった現状では、それによる影響でコミックス等の購買量が減少する可能性があることから、再び、著作権法の見直しを行う必要があるのかもしれない。そして、著作権法において、マンガ喫茶によるコミック等の貸与権についても、著作権者が専有できるようにすれば、著作権者の保護が図れるのかもしれない。
 事実、同じように本の貸与を行っている図書館に関しては、本の貸与によって著作権者の利益が大きく損なわれているとして著作権法の見直しが図られており、2008年にも公共図書館が無料で貸与する本の著作権者に対して、国が著作権料として補償金を支払うという方針が固められたようである。
 しかしながら、音楽関係に関する著作物とコミック等とは相違する点がある。第1に、音楽関係に関する著作物の貸与は、それらがダビングされて同じ音楽が聴ける媒体が複製されることを前提としたものであり、コミック等の貸与は、そのような複製を前提としたものではないという点がある。第2に、レンタルレコード店では、どの著作権者のレコードやCDを貸与したかという情報を収集しているが、マンガ喫茶では、どのコミック等を貸与したかという情報を収集していないという点である。まだまだ相違はあるが、これらの2点は特に大きな相違である。このような相違があることから、マンガ喫茶によるコミック等の貸与を著作権法で保護するにしても、どのような形態とするか難しく、補償金を支払うにしてもどの著作権者にどれだけの補償金を支払うのか決めるのが難しい。

 このような事を考えていたところ、マンガ喫茶側が著作権者側に補償金の支払いを承認するという歩み寄りがあった。マンガ喫茶側が、「マンガ喫茶の進出によってコミック等の売り上げが伸びなくなり、コミック化が取りやめられることになれば、マンガ喫茶に設置されるコミックの種類も減ってしまって店の経営に支障をきたす。それであれば、共に繁栄できる道を選びたい」と判断したため、ということをどこかで読んだ気がする。
 仮に、マンガ喫茶側が補償金の支払いに応じず、著作権者側から訴訟が提起されるということになっていれば、マンガ喫茶の存続も危ぶまれることになったかもしれない。それこそ、よくマンガ喫茶を利用させていただいている私としては、何ともやるせない結末であっただろう。
 結局のところ、マンガ喫茶におけるコミック等の貸与に関しての著作権法の法改正の時期を先送りしただけなのかもしれないが、このままマンガ喫茶が存続しつづけてくれるのを祈るばかりである。


 

弁理士 三浦 高広