東海支部の活動について

新聞掲載記事

更新:2008/11/22

児童向け知的財産教育の楽しさと難しさ

1.はじめに
 東海支部の教育機関支援機構は、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」(知的財産戦略本部)を受け、東海地域所在の小学校・中学校・高等学校及び大学等の教育機関を支援するための機構です。特に力を入れていますのが、我が国の将来を担う子どもたちを対象とする小学校向け知的財産教育支援授業です。
 昨年度は、12回の授業を行いました。子供の頃からの知財授業の必要性が叫ばれて、数年になりますが、この教育支援活動は、その目的が純粋であるがゆえに、弁理士の社会貢献を極めてわかり易い形で、世間に提示することができています。
 また、各学校の依頼内容をみますと、当初に比べ、知的財産制度の重要性についての認識や理解は明らかに深まってきていると感じています。「知財」という言葉の普及に鑑みますと支援機構の事業は、時代にかなったものであると改めて感じます。また、授業後に送られてくる子供たちの感謝に満ちた感想文を読みますと、日ごろの業務では得られない弁理士であることの自覚と、誇りが湧き上がってきます。
 当支援機構では、小学校からの要望に応えるために、種々の授業メニューを用意しています。そのうち、子供たちが充分に楽しめる絵コンテを用いた知財授業について紹介します。

2.楽しい知財授業
<電子紙芝居「特許てなあに」(第二章)>
あらすじ;パン屋のレオが、クリームパンを販売し、人気を博して、完売状態。これを見たシン(悪役)が、真似をし、元手がかかっていないことから大儲けする。レオは、模倣の理不尽さに嘆き、弁理士のキヨ爺さんに相談。ところが、特許がないから、止めさせることはできないとの残酷な言葉にがっくり。そして、さらに一念発起し、カレーパンを完成し、キヨ爺さんのアドバイスに従い、特許出願後に販売。これが再び大人気。これをみたシンが再び模倣。しかしレオは、既に特許を取っており、シンは完敗。

授業風景;およそ35枚の絵コンテをパワーポイントで紙芝居風に表示しながら、ナレータの進行により、5名の声優(弁理士)が登場人物を演じます。マンガ絵の楽しさと、声優の迫真の声音により、児童は画面に釘付け状態です。
 この電子紙芝居の前後に、郷土の発明家や、10大発明家等を紹介しながら、科学の発展と、そこで果たした発明の役割、知財制度の意義を解説します。
 電子紙芝居も、「特許てなあに」第一章、第三章のほか、著作権関係を解り易く紹介したものなど、その他多数用意しています。

3.児童向け知財授業のむつかしさ
 知財授業の実践あたっては、まずは児童に飽きさせないようにと、いろいろ工夫を凝らしています。この点では、絵コンテの楽しさや、面白グッズを用いることにより、45分授業に耐えられるものになっています。
 ところで、児童向けの知財授業の本当のむつかしさは、別のところにあります。それは、児童に何を伝えるか、です。中学生以上になると、知的財産権の保護制度の基本を教えるという座学的意義で充分です。しかし、児童への教育は、情操的意味も教える必要があります。
 授業の締めくくりとして、「皆さんも、大きくなったら発明して儲けしましょう」と言うわけにはいきません。知的財産権制度の柱である特許制度の本質は、発明者への適切な保護を通じて、産業の育成を図ることであり、発明への資本投下と、その回収と、再投資という循環系(これを知的創造サイクルといいます)を保全することです。
 「発明をして儲ける」というのは、資金回収という観点で特許制度の一方の本質を示しています。しかし、これは情操的には、拝金主義を助長するおそれがあり、児童教育の観点では、このように制度を言い表すことは、適切とは言えません。産業財産権である特許制度と、幼少期の人格形成を一つの目的とする小学校教育とを整合させるには、やはり工夫が必要です。
 そこで、教育機関支援機構では、議論の積み重ねにより、児童向け知財教育のねらいは、結局、次のことではないかと考え始めています。

イ 種々の社会制度の一つである知財制度を紹介し、これらの制度により社会が守られていることへの理解を深める。
ロ 他人の考え出したことを尊重し、敬意を払う(例え特許を有しなくとも)という意識を醸成する。
ハ 発明は、自然科学への知識と、困っている人を助けようという意識の結合によるものであり、知識と、人への優しさの出会いにより生み出されるという認識を育てる。

このような、地点に立ってこそ、胸を張って、知財授業の意義を、喧伝できると考えています。
(画像右上:弁理士キヨ爺さんの解説)
(画像左下:特許を取得したレオ)
(画像右下:完敗のシン)


日本弁理士会東海支部 教育機関支援機構
副機構長 松浦 喜多男