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新聞掲載記事

更新:2004/08/21

特許の有効利用

 私は、無料特許相談会の相談員として、今までに幾度か一般の発明者の方たちと話をする機会がありました。ここでは、この経験を通じて私自身が今感じていることについて「特許の有効利用」といった観点と絡めて、相談者と弁理士との間のQ&A形式で述べたいと思います。

Q.私は、自分の行っている商売に関して或る発明を思いつきました。このまえ、複数のお客さんに紹介したところ、みんな口を揃えて「それはいいね」と言ってくれました。そこで、この発明について特許を申請したい(特許出願をしたい)と思い、相談にやってきました。

A.この場合、原則的に特許をとることはできません。なぜなら、特許の申請は、秘密の状態で行う必要があるからです。たしかに、自分の発明についてのお客さんの反応をみてから特許を申請したかった気持ちはよくわかります。
 でも、特許制度では、申請時点で発明が秘密状態にあること、つまり、発明が「新しい」ことが特許の条件の一つになっています。以後、発明を思いついたら、お客さんに話をする前に、先ず特許の申請を済ましておくことが重要です。申請を済ませた後でお客さんに話をすることは何ら問題ありません。

Q.では、発明を思いついたら、お客さんに話をする前に何でも特許を申請すべきなのですね?

A.「何でも」というにはちょっと無理がありますね。というのは、同じ発明について他の誰かが既に特許申請をしていて、その発明が公開されているかも知れません。特許を申請すると、申請日から1年半後に「特許公開公報」という文献が特許庁から発行され、この公報によりその発明は「新しい」状態でなくなります。
 更には、特許公開公報以外でも他人が雑誌などで既に発表していることもあります。ですから、申請前にあなたがお客さんに話をしなくても、既に、これらの文献(一般に、先行技術文献と呼びます。)の存在によりその発明について特許をとることができない状態になっている場合があります。
 このような場合、先行技術文献の存在をチェックせずに特許を申請すると、将来権利化できない特許を申請することになって、その手間、費用などが無駄になります。そして、あなたのような個人が特許を申請する場合、このような状態になっていることが非常に多いのが現状です。つまり、特許を申請する前に先行技術文献をチェックすることは大変重要なことなのです。これを一般に、先行技術調査といいます。

Q.なるほど、先行技術調査は重要ですね。では、具体的に、先行技術調査はどのように行えばよいのでしょうか?

A.自分の発明に係わる先行技術文献の総てをチェックすることは現実には不可能です。でも、少なくとも特許公開公報のチェックについては、特許庁の電子図書館(ホームページ)を利用して個人のパソコンで比較的簡単にできるようになりました。
 特許庁の電子図書館を利用しても自分の発明に係わる特許公開公報の総てを見つけることができる保証はありませんが、検索の技術を高めることによってかなり高い精度で見つけることができるようになります。無駄な特許申請を防止するためにもこれくらいはご自分で最低限行っておくべきでしょう(特許庁の電子図書館の利用の仕方の説明は、ここでは省略します)。もちろん、弁理士などに先行技術調査を依頼することもできますが、調査のレベルによっては30万程度かかる場合もあります。

Q.わかりました。検索スキルを高めて、なるべく自分で先行技術調査を行うようにします。ところで、今、費用の話が出ましたので、特許の申請から特許権をとるまでには、どのくらいの費用が必要でしょうか?

A.費用には、申請を担当した弁理士が報酬としていただく代理人費用と、特許庁に支払う費用の2種類の費用があります。代理人費用としては、発明内容の複雑さ、申請書類のページ数などにもよりますが、申請時点で、通常25万~30万程度はかかります。一方、特許庁へ支払う費用としては、先ず、申請料として1万6千円が必要です。
 また、特許庁でこの発明を特許にすべきかどうかの審査をしてもらうための審査請求料として、更に20万程度必要になります。この審査請求料を申請から3年の間に納めないと、申請は自動的に取り下げられてしまいます。また、特許庁の審査の結果、一発で「特許にしてよい」との判断がなされればよいのですが、通常は、先ほどの自己の先行技術調査が完全でないことも相俟って、「特許にできません」として一旦拒絶されるケースが殆どです。この場合、これに応答する必要があります。
 このため、これに反論するための書面を作成したり、権利範囲を狭くするなどの書類の修正を行う必要が発生します。この場合の代理人費用としては、通常10万~20万程度が必要となります。そして、応答の結果、「特許にしてよい」との判断がなされる場合もありますが、なお「特許にできません」といって再度拒絶される場合もあります。この場合、更に応答するならば、再度代理人費用が発生します。このようなことがあった後、晴れて「特許にしてよい」との判断がなされて特許をとる場合、通常は、代理人費用として、10万以上の成功報酬が必要になります。
 また、登録費用として3年間分の権利維持費用(年金と呼びます。)である5万程度を特許庁へ支払う必要があります。この時点までで、拒絶が1回と仮定しても約70万程度が必要になります。また、特許権は、登録後、申請日から20年が経過した日までの間、維持できます。登録から4年目以降も特許権を維持していくためには、4年目以降も、毎年、年金を特許庁へ支払う必要があります。この年金は年が経つにつれて高額になっていきます。
 このように、特許権をとるため、そして権利を維持するための費用は決して少なくありません。更には、最終的に自分の発明が特許にならなかった場合、これらの費用は一切返却されません。ですから、無駄な出費を避けるため先ほど申しました先行技術調査が大変重要であることと同時に、特許をとる価値と費用とのバランスを十分に考えた上で、特許申請をするかどうかを決定する必要があるのです。

Q.では、特許をとる価値とはどのようなものでしょう?

A.特許を申請して権利化されると、その特許に係る製品を他人を排除して独占的に扱え、また、他人がその製品を扱うことを認める場合、その代償としてその他人から実施料を得ることができます。ですから、特許を有効利用すれば自己のビジネスチャンスを広げることができます。このようなことを考えると、特許をとる価値として、その製品が「世に売れる」ことが挙げられます。
 つまり、その製品をみんなが欲しがることです。その製品が「世に売れる」ものであれば、自分がその製品を生産する工場などがある場合、独占的にその製品を生産してビジネスチャンスを広げることが可能です。また、他人が「その製品を売りたいから特許を使わせて欲しい」といった交渉をしてくる可能性が高いので、これによってもビジネスチャンスを広げることができます。とはいっても、自分の発明に係る製品がこのような「世に売れる」製品となるかどうかは実際に売ってみないと判らないものです。
 ですから、費用に或る程度余裕が或る場合には、申請時点での費用は無駄になるかもしれませんが、特許の申請後に「世に売れる」かどうかの市場調査を行い、その結果「世に売れる」と判断した場合のみ上述した審査請求料を支払って特許庁の審査に移行させるという方法が考えられます。費用に余裕がない場合には、自分の発明に係る製品が「世に売れる」製品であるとのよほどの自信がある場合以外は申請自体を見送ることも重要だと思います。
 このように、特許の有効利用を図るためには、先ず、その第1歩として、先行技術調査をすること、並びに、発生する費用と特許をとる価値とのバランスを十分に考えた上で申請するかどうかを決定することが大変重要です。

弁理士 樋口 俊一