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新聞掲載記事

更新:2010/08/31

生物多様性条約って何?-第10回締約国会議が名古屋で開催-

 生物多様性条約と聞いて、一般の方でその内容をすぐに頭に浮かべられる方はいないと思われる。それほど、この条約のことは日本国民には理解されていないし、おそらく興味を持たれてもいない。普段の生活のなかでその関わりが感じられないからである。
 この条約の成立は比較的最近で、1992年の地球サミットで、地球の温暖化対策を定めた気候変動枠組み条約とともに署名が始まり、1993年12月29日に発効している。
 この条約の目的が第1条に定められている。

条約の目的
 1.生物多様性の保全
 2.構成要素の持続可能な利用
 3.遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分

 この条約には、193の国と地域が参加しており、2年に一度のペースで締約国会議(the Conference of the Parties, COP)が開催されており、10回目の締約国会議(COP10)が10月18日(月)~29日(金)の日程で名古屋で開催される。COP10では、遺伝資源利用の新ルールとなる「名古屋議定書」と、生態系保全のための新目標となる「名古屋ターゲット」を採択できるか否かが最大の焦点となる。
 生物の多様性は、気候や地形によって異なり、世界共通の指標を策定するのが極めて困難であり、温暖化対策よりも多くの課題を有する。生物多様性損失の要因も複合的で複雑であり、乱開発、乱獲、外来種の進入、地球の温暖化も要因に含まれ、この複雑さのために、政治・経済を巻き込んだ大きな議論に発展しにくい。
 地球における生き物達の多様性に思いを廻らすとき、皆さんは本当に不思議な気持ちになりませんか。なぜこの様に多くの生命体が地球に育まれ生きていけるようになったのかと。かけがえのない星、地球の不思議さについてつい考えてしまいませんか。地球は人類のためにあるのではもちろんなく、人類は何万、何十万種とある生き物達の1種に過ぎない。その人類が、地球環境を破壊し、多くの生物の多様性を喪失させている。
 農薬を用いることにより、多くの生き物達を喪失させ、ドジョウをすめなくし、コウノトリの住める環境を奪ってしまった。コウノトリの住める環境の再現は、農薬を使わない農業、多くの生き物達の復活、餌となるドジョウの住める環境の実現によってなされ、そのことは人類にとっても優しい環境の実現につながる。
 人類の環境破壊により、シロクマ、パンダ、アフリカゾウ、アムールトラ、シマフクロウなど数え切れない多くの愛すべき生き物達が絶滅の危機に瀕している。

 動物のみならず地球における植物の多様性も驚くべきで、多くの病気を治す多種の薬草があり、これらは伝統的知識として受け継がれ、その中には漢方の原料になる植物も含まれ、中国の奥地にはガンを治すという木まで生育している。森は空気を浄化し、多くの生き物を育む。これらの人類に役立つ植物は人間の手が入ると、特に先進国の企業が目をつけると、すぐに絶滅の危機にさらされる。ガンを治す木などは一度伐採すると簡単には植林復元することができない。
 植物は、光合成により二酸化炭素を吸収し、酸素を出してくれる。二酸化炭素を海水中に溶かし込みその濃度を高めると、海草たちは光合成を活発化させて多くの二酸化炭素を吸収し、生育を早める。その大きく育った海草は人間や動物の食料となる。
 藻の中にはオイルを産出するものもあり、海中のバクテリアの中には、二酸化炭素を吸収して人類にとってエネルギー源となるメタンガスに代えてくれるものもある。
 こういった生物達の多様性を考えると、地球を救い、環境問題、エネルギー問題を解決してくれる切り札となり得るのも生物達であるといえる。
 この様に有用な生物達を乱開発、乱獲により絶滅させてはならない。栽培し、あるいは培養することも大切となる。
 開発を思いとどまり、生物の多様性を保全するには多大な資金が必要となることもある。そのために、遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分することが大切になってくる。
 発展途上国には生物の多様性が豊かな国が多く、遺伝資源の利用から生ずる利益を配分することにより、発展途上国を貧困から救える可能性も大きく、貧困を無くし、世界の平和に貢献できる道が先進国には開かれている。
 そのためには、遺伝資源の持続可能な利用の促進が大切となる。

 生物多様性条約では、上記した3つの目的を達成するための国際的枠組みがいずれも定められておらず、基本的に各締約国の国内法に委ねられている。資源提供国(主にブラジル、インド等の発展途上国)はアクセス自体が不可能なほど厳しすぎる国内法を定め、逆に資源利用国では利益の公正かつ衡平な配分に関する国内法を定めていない国が多い。このため、資源提供国と資源利用国との間で争いが絶えない。先進国のバイオ企業は遺伝資源へアクセスすることにより莫大な利益を得ることもあり、特に特許権を取得することにより利益を確保している。資源提供国は特許出願の際の遺伝資源の出所開示を求めるようになってきている。
 このため、COP10では、国際的制度(International Regime, IR)の策定が強く求められており、遺伝資源利用の新ルールとなる「名古屋議定書」と、生態系保全のための新目標となる「名古屋ターゲット」の採択が求められているのである。

経済産業省 生物多様性条約のためのタスクフォース委員会
委員 弁理士 井内 龍二

アムールトラ(画像提供:東山動植物園) アムールトラ(画像提供:東山動植物園)