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新聞掲載記事

更新:2004/11/21

特許権と他人の権利との関係

 「特許権」とは、特許権者が発明を独占排他的に実施(発明に係る物の製造や販売などをいいます)することができ、他人が勝手に実施したような場合には、その実施を制限したり損害賠償を請求することができる権利です。しかし、特許権を取得したからといって必ずしも安心して製品を製造・販売できるわけではありません。他人の権利を侵害してしまうこともあるからです。そこで、今回は、他人の権利との関係について見ていきます。

Q.特許を取得した製品を販売したら、特許権侵害で訴えられてしまいました。自分は特許権を持っているのになぜ侵害で訴えられるのですか。
A.特許権は、前述したように特許発明を独占排他的に実施し得る権利です。従って、自分が取得した特許に基づいて製品を製造し、それを販売することに関して他人から特許権侵害で訴えられるのはおかしいのではないか、という疑問をもたれたのでしょう。
 特許を取得したとしても、特許を受けた発明を実施すると同時に他人の特許発明も実施してしまっている場合があります。これを特許法では発明の利用といいますが、自分の特許権に基づいた実施であっても他人の権利を侵害してしまうことになるのです。

Q.他人の特許発明を実施してしまう「利用」とはどういったことですか。
A.身の回りにある電化製品などを見て下さい。新製品によって、これまでより使いやすくなった、性能が良くなった、といったものが次々に発売されています。新製品の特徴は、そうした新たに付加された技術であって、従来よりも良くなった点にまさに発明があるのです。しかし、製品はその発明だけで成り立っているのではありません。様々な技術の積み重ねによって完成されているのです。従って、新たな機能を加えた製品を製造・販売する場合には、その機能に関する発明だけでなく製品を構成する他の技術(発明)を使っているのです。
 例えば、カメラ機能を備えた携帯電話が登場したとき、その新しい技術によって写真を撮って送るという、これまでにはない新たな機能が生み出されました。これについて見た場合、仮に携帯電話がa,b,cの構成からなり、それにカメラ機能dという構成を加えてカメラ付携帯電話がつくられたとします。そして、それぞれa,b,cの構成からなる携帯電話Xの発明Aと、カメラ機能dを付けたa,b,c,dの構成からなる携帯電話Yの発明Bとの2つの発明が存在することになったとします。発明Bの携帯電話Yを製造・販売する場合、その携帯電話Yを製造するにはカメラ機能b以外の構成a,b,cの技術、つまり発明Aを実施しなければなりません。従って、携帯電話Yを製造するには、発明Bを実施すると同時に発明Aも実施してしまっているのです。逆に発明Aを実施してカメラ機構のない携帯電話を製造しても発明Bを実施することにはなりません。こうして、一方が他方の権利内容を全部実施し、その逆は成立しない関係を発明の利用といいます。

Q.ですが、自分の特許権があるにの訴えられるというのはどうしてですか。
A.先ほどの携帯電話を例に挙げて説明します。a,b,cの構成からなる携帯電話Xの発明Aに関して特許権αが認められ、これを甲さんがもっていたとします。一方、カメラ機能dを付けたa,b,c,dの構成からなる携帯電話Yの発明Bに関して特許権βが認められ、これは乙さんがもっていたとします。甲さんと乙さんは共に特許権者であるため、それぞれ発明A,Bを自分の取得した権利の下で自由に実施できるのが原則です。
 しかし、こうした関係において乙さんが自由に携帯電話Yを製造・販売できるとすると、その携帯電話Yを製造するために必要な技術である発明Aについて甲さんが特許権αを取得している意味がなくなってしまいます。そこで、特許法では、適切に権利を保護するため特許を取得した特許権者であっても先に出願された他人の特許発明を利用することになる場合にはその実施を制限し、実施した場合には利用した他人の特許権を侵害したことになるようにしているのです。そのため、乙さんがカメラ付き携帯電話Yを製造・販売した場合、それが自ら所有する特許権βに基づくものであっても甲さんの特許権αを侵害してしまい、訴えられてしまうことになるのです。

Q.では、乙さんが発明Bについて特許権βを取得する意味がないのではないですか。
A.甲さんの特許権αが存在する限りは、発明Aを自由には実施することはできません。しかし、特許権というのは永久権ではなく存続期間があるため、いずれ消滅します。そうすれば誰もが発明Aを自由に実施することができます。
 一方で、実施料を支払って実施する権利を取得すれば、乙さんだけがカメラ付き携帯電話Yを製造・販売することが可能になります。甲さんであってもカメラ付き携帯電話Yを製造・販売すれば乙さんの特許権βを侵害することになって逆に訴えられるからです。従って、勝手にカメラ付き携帯電話Yを製造・販売する者に対しては侵害で訴えることもでき、甲さんがカメラ付き携帯電話Yを製造・販売するならば、発明Bを実施させる代わりに発明Aを実施できるようにクロスライセンス契約を結ぶことも可能なのです。こうしたことから特許権を取得しておく意義は大きいのです。

Q.製品にはいくつもの特許権が存在するのですね。
A.そうです。電化製品や自動車、事務機器などは特許の塊なのです。つい先日もテレビで過去のそうした事例が取り上げられていました。日本の電気機器メーカがコピー機事業に参入しようとしましたが、世界シェア100%を誇る先行外国メーカによって特許網が構築され、独自のコピー機の製造に難航を極めたという話です。その外国メーカは、コピー機に関して実に1100件もの特許を取得していたのです。

Q.なぜ、そんなにも特許を取得しなければならないのですか。
A.発明の内容は様々で、まったく新規な技術である基本発明や、その基本発明から考えられた技術である改良発明があります。出願されるほとんどの発明がこの改良発明です。実際、商品化するために製品開発を行っていくうちに多くの改良発明が生まれます。それは、商品として世に出すためには基本原理だけで商品は完成しないからです。
 そして、世に出た商品であっても技術の進歩によって更に改良が加えられ進化していきます。こうした課程で数多くの発明が生まれ特許化されていくのです。それゆえ、基本発明について取得した基本特許は非常に強力な権利ですが、商品化するために必要な改良発明について周辺特許を取られてしまったのでは、その効力も生かされません。基本発明について特許権を有していながら、結果的により良いものをつくることができなくなるからです。よって、製品を基本特許だけでなく周辺特許を取得することも商品を製造・販売していく上で極めて重要なことなのです。

 

弁理士 廣田 昭博