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新聞掲載記事

更新:2014/02/28

商標の実務現場から“富士山”商標を題材に

 1.ネーミングが勝敗を分ける
   同スペック、同品質、同価格の商品を提供するライバル企業、A社、B社。なぜかA社製品の売れ行きがよい。
  ユーザーに聞くと、結局ネーミングの妙に引かれてA社製品を購入、且つ製品満足度も充分で結局リピータになっ
  ている、とのこと。
   一方B社。A社製品のネーミングに類似したネーミングで再挑戦と行きたいところだが、A社は既に商標登録を
  しており、それはできない話。B社が新たに対抗できるネーミングを模索しているうちにもA社製品は評判を呼
  び、シェアは拡大の一方。
   こんな単純ではないものの、これに類似した事例は少なくない。

 2.ネーミング手法のあれこれ
   ということで、売れるためのネーミングの模索とその権利化(商標登録)への試みが常に行われている。それ
  は、登録商標を検索すれば一目瞭然で、なるほどと感心させられるものや、創出の苦労が伝わってくるもの、更に
  はダジャレがすべってしまっているようなもの等が多々見られる。そのうちの1つの手法として、トピック乃至は
  流行語拝借型というようなネーミングがしばしば試みられている。ことの適否は別として、昨年ブレイクした
  「じ○、じ○、じ○」や、「ン倍返し」や、「お・○・て・な・し」等々である。これと同列とは必ずしも言えな
  いが、世界文化遺産となった“富士山”に因む商標についても新たに多くの出願がされている。食品の区分に限って
  も、「富士山の恵み」、「富士山の恋人」、「富士山の星座」、「富士山のきらきら」等々、ゆうに1000件
  は超えている。もちろん、出願中、すなわち審査途中のものが含まれているが、登録されたものは、互いに
  「富士山○○」として「富士山」を共通して含みながらも、全体として類似しないということで、いわば棲
  み分けができていることが見て取れる。

 3.商標登録のハードル
   実例を先に紹介したがここで改めてどんなネーミングが商標登録ができるのか、多くのハードル(登録要件)の
  うち代表的な2つのハードルについて知ってほしい。
   まず第一のハードルは、商標として特徴・資質があるか、ということ。
   先の富士山○○で、○○が「饅頭」だったり、「天然水」だったらどうだろう。「富士山饅頭」、「富士山天然
  水」では、富士山の周辺の土産店で売られている饅頭、あるいは富士山の湧水を使った飲み物のイメージしか感じ
  させられない。このような商標は、どこか特定の企業の商品とは思われず、商標としての特徴が評価できないとし
  て登録は難しい。加えて「富士山饅頭」にしろ、「富士山天然水」にしろ、このような語は、同業者が自社商品の
  販売地や原材料を表示するために必要とする。そのため誰にでもその自由利用が確保されるべきものと考えられ、
  結果このような語については、誰か特定の者が商標登録を受けることはできない。
   次に第二のハードルは、他人の商標と類似するものは登録できない、ということ。
   先に挙げた「富士山の恋人」、「富士山の星座」等について見てみると恋人と星座とが異なったことから類似し
  ないと判断された。この類似するか否かという判断は、主として聞いた感じが似ているか(例えばクリーンアップ
  とクリナップは類似)、見た目が似ているか(例えばハイメガとハイメカは類似)、イメージ、意味合いが似てい
  るか(例えばセサミ工房とごま工房は類似)、という視点でなされ、どれかで似ていれば類似と判断される。
   ということで、ごく概略的に商標登録を受けることができる商標について富士山商標を絡めて説明したが、特許
  庁の審査実務は更に微妙なものがある。商標法上では、登録できないと思われるケースであっても、しばしば登録
  されているケースもある。このためネーミングを決めようとする場合には、やはり先登録の実態を把握し、あとで
  “しまった”がないようにすることが肝要である。

                                            弁理士 東山 喬彦