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新聞掲載記事

更新:2014/08/29

特許出願の補正について(下)

   先月は、特許出願した発明と従来技術との差異を明確にするため、特許庁の手続きにおいて、特許請求の範囲
  の補正を行うことが有効であることをお話ししました。今月は、このときの注意事項をお話しします。
   例えば、出願人が特許請求の範囲を狭める補正を行い、その旨の意見を述べて特許権を取得したとします。そ
  の後、特許権者は、特許権侵害により類似品の製造者を訴えても、補正によって狭められた部分を権利範囲とし
  て主張できないことに注意が必要です。自己矛盾は許されないという原則があるからです。
   これに対し、特許請求の範囲を狭める補正を行うと共に、その旨の意見を述べたにも関わらず、その補正(補
  正Aとします)が認められなかった場合はどうなるでしょうか。但し、この特許出願は、補正Aを撤回して他の
  補正(補正Bとします)によって特許権を取得したとします。
   この場合、補正Aは認められなかったので、補正Aやそのときの意見に権利範囲は拘束されません。そのため、
  特許権者は補正Aによって狭めようとした部分を権利範囲として主張することができます。もちろん、補正Bに
  よって狭められた部分は権利範囲の主張ができません。
   3年前の事件ですが、越後製菓と佐藤食品工業とが争った切り餅事件も、そのような議論がありました。越後
  製菓(出願人)は、特許請求の範囲を「側面のみに切り込みが設けられた餅」と補正しました(補正A)。しか
  し、特許出願の明細書に記載されていたのは、「側面と上面の両方に切り込みが設けられた餅」だったので、特
  許庁は「餅の側面のみに切り込みを設けることは明細書に記載されていない」と判断して、補正Aを認めません
  でした。その後、出願人は補正Aを撤回すると共に別の補正Bを行って、特許権を取得しました。
   越後製菓(特許権者)は「側面と上面の両方に切り込みが設けられた餅」を製造販売する佐藤食品工業を訴え
  ました。佐藤食品工業は「越後製菓は『餅の側面のみに切り込みを設ける』という補正Aの経緯があるので、権
  利範囲は補正Aに拘束される」と主張しました。
   しかし、裁判所は「一度は補正Aをしたが、補正Bを行って補正Aを撤回するに至ったので、補正Aに拘束さ
  れる筋合いはない」と述べ、特許権の侵害を認めました。特許権者は補正Aが認められなかったのが幸いしたの
  ですが、補正を行う場合には、補正によって狭められた部分を権利範囲として主張できなくなることを考えて、
  補正の内容を考えることが必要です。

                                      特許委員会 弁理士 林 洋志