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新聞掲載記事

更新:2014/10/31

個人発明家が特許で勝訴(下)

   齋藤憲彦氏はアップル社のiPod各機種のクリックホイールが、特許出願した自分の発明の権利を侵害した
  と考え、同社にこれを認めさせるため、代理人の弁理士を変えて当初出願の分割出願をした。分割出願は元の出
  願の一部を新たに出願するものであるが、元の出願の時点に遡って出願したと扱われるメリットがある。この分
  割出願は、構成をよりクリックホイールの構造に近づけた補正を経て最終的に平成18年9月15日登録に至っ
  た。齋藤氏は改めてアップル社とライセンス交渉をしたが同社は本件特許を侵害しないとの考えからか交渉は決
  裂した。その後も同社はクリックホイールを使用したiPodの新機種を発売したので、齋藤氏の関係会社(権
  利者)は平成19年3月アップル社に対し特許権侵害に基づく損害賠償請求の訴訟を提起した。損害の内容は本
  件特許権の登録後のロイヤリティ相当額で、権利者は総売上高の10%である数百億円になるとしつつ、取り敢
  えずその一部1億円を請求した。
   訴訟の当初の段階ではアップル社の反論が優勢であったためか、裁判の途中で権利者は特許庁に対して本件特
  許権の内容をほぼクリックホイールの構造に合わせる訂正の審判を申し立て、平成21年4月にこれを認める審
  決を得た。これによって、権利者が優勢に転じ、それを感じた権利者は請求額を1億円から100億円へと増額
  している。平成25年9月26日の東京地裁の判決は、先の訂正の違法などにより本件特許権は無効である、そ
  うでなくても権利侵害に当らないという、アップル社の多数の反論を全て排斥して権利者の主張を認めた。ただ、
  損害額については、アップル社の会計帳簿の鑑定結果に基づく訴訟対象のiPodの売上高(非公表、権利者主
  張の販売額より低額)をもとに、これに対する本件特許権の貢献割合をかなり低く評価した(非公表)結果、総
  額3億3664万円余りの支払をアップル社に命じた。これを不服として双方が控訴したが、平成26年4月2
  4日に出た知財高裁の判決は東京地裁の判決内容をほぼ全面的に支持した(双方上告によりまだ確定していな
  い。)。
   個人の発明家が大企業に勝訴したのは大変珍しいことだが、その特許権が世界に通じたことは賞賛に値する。
  さらにこの勝訴には齋藤氏の発明に対する熱意が感じられる。iPod発売後の入力部の変遷を見て売込みをし、
  アップル社がクリックホイールを採用するや、ロイヤリティが取得できるよう弁理士と協力してクリックホイー
  ルに対して強い特許にすることを目指した努力に敬意を表したい。

                                           弁理士 相羽 洋一