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新聞掲載記事

更新:2005/05/29

特許権侵害の警告を受けたらどうする?

 「特許権」とは、業として、他人を排して特許発明を独占的に実施する権利です。当然、自身が特許権者であれば非常に有利な立場であることはいうまでもありません。しかし、特許権は、競業者も取得できるものであり、突然、自社製品が特許権を侵害している旨の警告状を受けることがあります。

Q.警告状はどのような場合に送られてくるのでしょう?

A.警告状は特許権者などが自己の特許権を侵害されたと判断した場合に送付する文書です。特に形式は決められていませんが、内容証明郵便などで行われています。
 警告書には、「製品○○は、特許権を侵害しているので、製造販売の停止、製品の破棄、製造設備などの除却、いままでの損害の賠償」、などの内容が記載されています。このように、警告書には突然、送られてきたならば卒倒しそうな内容が記載されていることが一般的です。
 また、警告状には、「誠意ある回答が得られない場合には訴訟を行う準備がある」ことが記載されることも一般的です。

Q.警告状が送られてきたら、どうすればよいですか?

A.もし、本当に、その特許権を侵害していることが事実であれば、残念ながら、警告状に記載されて内容について、ほぼ、そのまま受け入れるしかありません。「特許権が存在していることを知らなかった」と、主張しても、特許公報は内容が公開されており、誰でも見ることができるので、知らなかったとして逃れることはできません。
 しかし、警告状の送付は特許権者などの判断で行っており、特許権を侵害しているかどうかの判断は必ずしも正しいとは限りません。例えば、実際は特許権を侵害していないにもかかわらず、侵害していると警告状を送付する場合も多々あります。従って、以下のようなことを確認する必要があります。いずれにせよ、できるだけ早く専門家である弁理士や弁護士に相談することが必要です。

 特許権の侵害が成立するには、(1)警告状を送付した者が特許権者など差止の請求などを行う権利を有していること、(2)特許権が有効であること、(3)特許権の侵害であるとされた製品などが、特許発明の技術的範囲に含まれること、が必要です。

(1)特許権者の確認
 特許権の行使は、特許権者など一定の者に限られています。そこで警告者がこれらの者であるかどうかの確認が重要です。警告書に記載してある特許番号に基づいて、特許原簿の謄本を取り寄せ、警告者が特許権者などとして表示されているかを調査します。

(2)特許権の有効性の確認
 特許権は、設定登録により発生し、その存続期間は特許出願日から20年です。従って、特許権の存続期間が満了していないかを確認します。
 また、存続期間内であっても、特許権の維持には、特許料を毎年支払う必要があります。従って、特許料の不払により特許権が消滅していないかも確認します。これらの事項も特許原簿にて行うことができます。
 また、特許庁での審査により特許権が成立していても、審査資料は膨大なので見落としなどが全くないとは言い切れず、特許権に何らかの無効理由が存在する場合があります。無効理由が存在するような特許権に基づいた権利行使は行うことができません。

(3)権利内容の確認と自社製品との対比
・警告書には、権利内容の詳細まで記載されていることはほとんどありません。そこで、警告書に記載してある特許番号などに基づいて特許公報を入手しその内容を検討します。
 特許公報は、特許庁ホームページの特許電子図書館で調査できるほか、発明協会などでも購入することができます。特許公報には、いろいろな項目が記載されていますが、それら事項のうち「特許請求の範囲」欄の記載に基づき特許発明の技術的範囲が決定されます。
・上記の調査・確認の後に実際に警告が為された自社製品の構成と特許公報の「特許請求の範囲」欄の記載とを対比し、相手方の主張通りに侵害が成立するかどうか検討します。その場合、「特許請求の範囲」欄以外の記載についても、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈する際に考慮してもよいとされています。また、上記判断に際し、特許公報に記載された内容以外に出願経過書類や出願当時の技術水準などが判断材料になります。まれに、警告者の勘違いなどで、そのような自社製品が存在しない場合も考えられます。いずれにしても技術的範囲の判断やその対比検討は、専門的で微妙な問題であり、弁理士などに相談することをお勧めします。

Q.警告状について検討した後、どのような対応をとれば良いですか?

A.以上のように検討した後の対応としては大きく3つに分けることができます。
(1)侵害していないと判断した場合
 調査検討の結果、自社製品が相手方の特許発明の技術的範囲に含まれないと判断した場合、相手方に対し、その理由を述べた回答書を送付します。相手方の誤解が解ければ、その後の無用な紛争を避けることができます。この場合、相手方が納得しなければ、更に、回答書への反論や、訴訟の提起などが行われるので、そのような場合に備えて、技術的範囲に含まれないと判断した根拠について、資料の調査・収集などを行うことが望ましいです。

(2)相手方特許に無効理由がある場合
 調査検討の結果、同じような内容の発明が特許出願前の文献に記載されていた場合や、それらの文献を組み合わせることにより容易に発明できた場合には相手方の特許権そのものを無効にすることができます。特許権を無効にすれば、初めから存在しなかったものとして扱われるので、その特許権については、その後、何らの考慮を行うことも必要なくなります。
 このように、無効理由があると判断した場合には、特許庁に無効審判を請求して、その特許権を無効にすることができます。また、実際に無効にしなくても、無効理由の存在を相手方に回答することで、権利行使を断念させることができます。
 更に、実際に無効にせず裁判になった場合にも無効理由が存在する特許権の行使は権利乱用であるとして権利行使が制限されます。
 なお、いったん認められた特許を無効であると主張するのですから、それ相当の根拠が必要です。また、無効審判や裁判手続にて特許権が無効であると主張した場合に、必ずしも主張が認められるとは限られず、反対の結論が為されることがあります。その場合、損害賠償の額などが増加するおそれがあり、無効理由については十分な検討が必要です。

(3)自社製品が特許発明の技術的範囲に含まれ、相手方特許に無効理由がない場合
 特許権に無効理由が存在せず、自社製品が相手方の特許発明の技術的範囲内であると判断した場合には、一定の抗弁事由がある場合を除き、その製造販売を中止するなど、相手方の主張を受け入れます。損害賠償については、回答書にて今後の製造販売を中止することを申し出ることなどにより、撤回や減額などをしてもらうように交渉するしかありません。
 特許権の存続期間の満了が近い場合には、その満了の日まで製造販売を中断後、製造販売を再開することができます。すぐにでも製造販売の継続を欲する場合には、特許権者などと話し合いを行い、特許権を譲り受けたり、金銭の支払いなどの何らかの条件で実施許諾を受けるなどの方法をとるか、自社製品が技術的範囲に含まれなくなるように設計変更を行うしかありません。

弁理士 丹羽 純二