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新聞掲載記事

更新:2005/06/29

意匠いろいろ

★特許と意匠
 コップ株式会社開発室の「甲野さん」は、奇抜な取っ手をつけたコップを創作しました。このコップは、社内の開発製品説明会で好評であり、すぐに製品化が決定しました。この製品化の決定にあたり、社長の「乙原さん」は、「このコップは取っ手が奇抜なので、必ず他社が模倣するに違いない。ぜひ、特許を取得して、他社の模倣を防がなければ」と考えました。乙原さんは、このコップを持参して早速弁理士の「丙田さん」に何とか特許を取ることができないかと相談しました。
 しかし丙田さんは、コップ自体はありふれたものであり、例えばマグカップのようにコップに取っ手をつけたものも世の中に広く出回っており、コップに取っ手をつけて持ちやすさを高めた程度では特許の取得は難しいと乙原さんに伝えました。特許や実用新案では発明や考案などの技術的思想が保護されます。そのため、ありふれた技術は保護されず、新規な技術であって従来の技術よりも進歩的なものが保護の対象となります(特許法第29条、実用新案法第3条)。

 したがって、技術的にありふれた取っ手つきコップでは、取っ手そのものが奇抜であっても特許権や実用新案権による保護は難しくなります。但し、奇抜な取っ手の形状に、例えば滑り止めの効果がある場合や、持ちやすさを改善する効果がある場合などは、技術的な効果が得られる発明として特許などにより保護される可能性も出てきます。
 さて、特許の取得が困難と聞いて乙原さんががっかりしていると、丙田さんが明るく口を開きました。
 「このコップの取っ手は珍しいデザインですね。これなら意匠の登録はいけるのではないでしょうか。」
 これを聞いて乙原さんは、「意匠?」と怪訝そうに丙田さんの顔を見上げました。丙田さんは、「意匠というのは、デザインのことですよ。このコップのように技術的に目立った点がなくても、デザインが目新しいとき、このデザインは意匠権という権利で保護することができるのですよ。」と乙原さんに伝えました。丙田さんは「意匠権も特許権などと同じ独占権ですから、他人の模倣を制限することができますよ。」と続けました。そこで、乙原さんは、丙田さんに意匠の出願を依頼しました。

★意匠登録出願の図面
 意匠登録出願をする場合、願書に意匠を表した図面を添付しなければなりません。しかし、このコップのように甲野さんが試行錯誤で創作した場合、必ずしも詳細な図面が存在するとは限りません。このように、図面がすぐに準備できない場合、図面に代えて写真や雛形、見本を提出することもできます(意匠法第6条第2項)。

★バリエーションがあったら
 今回の取っ手付きコップのように意匠を試行錯誤して創作する場合、複数の意匠のバリエーションが生じることも多くあります。このように、互いに類似するバリエーションの意匠は、同一出願人が同日に出願することにより、図1に示すようにメインとなる本意匠Aに類似する関連意匠B、関連意匠Cがあるとき、本意匠Aだけでなく、関連意匠B及び関連意匠Cについても登録を受けることができます(意匠法第10条)。

★秘密にしたかったら
 ところで、甲野さんが創作した意匠は、出願後の審査によって拒絶理由がなければ出願から早ければ半年、通常約1年程度で登録となります。登録された意匠は、意匠公報によって公衆に公示されます。このように、意匠は登録によって公衆に知られる状態となってしまいます。しかし、意匠によっては公衆に知られたくないことも考えられます。
 例えば甲野さんが創作した取っ手付きコップの意匠は、正規の図面の作成、金型の準備、メーカーの手配など、実際の製品の販売は数年先になることも考えられます。このような場合、登録によって意匠が公示されると、せっかくのデザインが同業者に知られることとなります。その結果、例えば機動性の高い同業者によって意匠権を侵害しない程度にそっくりの意匠が出回り、日本株式会社がいざ取っ手付きのコップを販売しようとしたとき、そのデザインは陳腐化していたということにもありえます。
 そして、オリジナルを開発した日本株式会社の製品は売れず、このデザインの製品化に投資した資金・労力に見合った利益を回収できないことも考えられます。特にファッションの分野などでは、数年先の流行を先取りし、早期にデザインが行われています。そのため、出願した意匠の公示によって競業者に自社の戦略を知られることにもなりかねません。
 このような場合でも意匠の秘密を維持するために、意匠法では秘密意匠の制度が設けられています(意匠法第14条)。この秘密意匠の制度を利用すれば、登録後3年以内の期間で登録となった意匠を秘密にすることができます。

★出願前に意匠を公開してしまったら
 意匠権で保護される物品のデザインは流行に影響されやすいため、製品の売れ行きを確認したいと思われることも多いでしょう。すなわち、売れ行きが半信半疑な製品の場合、製品を取りあえず販売し、製品の売れ行きが好調であればその製品の意匠について意匠登録出願をしその意匠の保護を図りたいと考えることです。
 特許法では、刊行物に発表した発明、学会や博覧会などの特定のイベントで発表した発明、又は発明者の意に反して公知となった発明などを除き、出願前に他人が知ることとなった発明について特許を受けることはできません(特許法第29条、第30条)。これは、例え発明者自身が出願前に他人に公開した発明であっても、同様です。
 これに対し、意匠法では、創作者など意匠を受ける権利を有している者の行為によって意匠を公知にした場合でも、意匠の新規性が喪失しなかったものとして意匠登録を受けることができる場合があります(意匠法第4条第1項)。すなわち、上述のように売れ行きが半信半疑な製品でも取りあえず販売した後、その売れ行きをみてからその製品の意匠について意匠登録出願をし、登録を受けることができる場合があります。但し、この規定の適用を受けるためにはいくつかの条件がありますが、ここでは省略します。

★むすび
 以上のように、特許と意匠とを出願の段階で比較して説明しました。意匠権は、特許権などと異なり物品の外観などのデザインそのものを保護するものであり、技術的な思想を保護する特許権とは趣が異なります。
 また、意匠権は、無審査登録主義を採用する実用新案権とは異なり、特許権と同様に審査主義を採用するため権利の安定性が高いという利点とともに、出願から登録まで約1年と審査が早いという利点も有しています。さらに、上述のように意匠特有の規定もあり、意匠権は意外と使い道が広いものです。
 みなさんも、特許権の取得だけでなく、意匠権も含めた幅広い権利の取得を検討されてはいかがでしょうか。

弁理士 南島 昇