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特許権を侵害されたら?~落ち着いて一つずつ~/弁理士 加藤 大輝

  • 特許(発明)
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 自社の特許権が侵害されているかもしれない。そんな時は、慌てず騒がず、まずは落ち着いて、事実を一つ一つ整理しましょう。頭にきていたとしても、特許侵害事件は、「拙速は巧遅に勝る」ではなく、「急がば回れ」の心持で進めることが肝要です。
 特許権等の侵害事件に慣れている方はほとんどいないのではないでしょうか。基本的には専門家(弁理士や知的財産権に明るい弁護士)と協力して、事件を解決することとなると思います。事件の進行は専門家にある程度任せることになると思いますから、今回は、特許権が侵害された(かもしれない)場合につき、注意点を含め心構えについて記そうと思います。
 特許権侵害に係る警告は珍しいものではありません。つまり、特許権の侵害が疑われる場合には、想像以上に気軽に(簡単に)警告状を送ることがあります。しかしながら、警告状の送付は特許戦争の宣戦布告になりえますから、事案によっては裁判事件に発展し、手間、費用そして時間が想像以上にかかります。
 そのため、相手方(被疑侵害者)への対応をとる前に、事実関係を整理して、どのように進行するのか、また、大まかな落としどころ(ゴール)を一定程度決めておくのがよいでしょう。
 特許訴訟に100%はありません。事件の終結まで結論がどちらになるかは我々にもわかりません。後々、思った以上に費用がかかった、とか、終わってみたら何も得るものがなかった、等と感じることもあります。それを避けるためにも、我々専門家に疑問や不安な点はどんどん尋ねてみてください。それにお答えするのも我々の役割です。
 弁理士や弁護士のもとに相談にいく際には、本件特許権の内容が確認できるもの(例えば、特許公報。特許番号だけでも構いません。)、被疑侵害物件(物や製法等)が特定できるもの(実物が手に入るならベスト、なければパンフレット等)をご用意ください。その際に、技術知識を備えた技術者(例えば発明者)等が相談に同行されるとスムーズです。これらを基に、被疑侵害物件が本件特許権の技術的範囲(いわゆる権利範囲)に属するか否かを判断します。
 事実関係を整理することで、取りうる対応が決まってきます。形式的に特許権が侵害されていると判断される場合には、相手方にその旨警告することとなります。なお、被疑侵害者との関係性(例えば、別事業でパートナー関係にあること等)を鑑みて警告状を送らないという選択肢も考えられます。逆に、いきなり裁判を提起することもできます。
 警告状には、1.被疑侵害物件、2.本件特許権、そして、3.相手方に要求する対応を記載します。なお、3.の前段階として、被疑侵害物件の販売等の実施行為の実態がよくわからない場合がありますので、その開示を要求することもできます。
 ここで注意しなければならないのが、警告状を送る相手です。被疑侵害物件の製造者(メインの実施者)ではなく、その取引先も対象とするような場合、不正競争防止法の営業誹謗行為に該当してしまうケースもあります。そうなると、こちらが被告となる訴訟が提起されるおそれがあります。先走らず、専門家にしっかりと相談して、警告状の送り先やどの程度の告知行為を行うかを決定してください。
 3.相手方に要求する対応は、先に述べたように、落としどころを考慮して決定してください。被疑侵害物件の実施の停止や、ライセンスの設定等、いろいろな選択肢があります。相手方に貸しを作るも良し、強硬策に出ることによって自社の知的財産権への姿勢を示すきっかけとすることも考えられます。
 警告状を送ったら、(基本的には)回答書が返ってきます。これにより、争う、争わない、さらには話し合いで解決するという方向性が見えてきます。相手方の出方や事実関係いかんで訴訟に発展したり、話し合いによる決着もあります。また、回答書によって、こちらが想定していないような事実が判明することもあります。
 落としどころを決めておくことは大切ですが、そこに固執してはいけません。事件の進行とともに、状況は変化します。和解交渉中に、商談がまとまって将来的なパートナー関係となったこともありました。「人間万事塞翁が馬」、柔軟に、丁寧な対応を心がけましょう。
 自社の特許権が侵害されているかもしれない。そんな時は、自社にとって最良の選択をするために、専門家の意見を聞きながら、急がず焦らず、落ち着いて対応することが最も大切なのではと考えます。

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