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中国の知財の現状~中国で知財財産権の確保を~

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 中国では1980年代に成立した知的財産権法制度の改正を重ねる中、もっぱら模倣品の問題が叫ばれてきたが、今や特許等(特許、意匠及び実用新案を中国では「専利」という。専利権に商標権を含めてここでは「産業財産権」 という。)の出願件数が世界最多となっている。その背景には、中国にビジネス展開する日本企業にとって看過できない知的財産政策がある。そこで中国における知財上の留意点に触れつつ現状を概観する。


【専利等の出願の現状】

 図1は、主要特許庁における特許の出願件数である。2017年の件数は中国138万件、日本32万件で約4倍の開きがある。同年の実用新案出願件数も中国124万件に対し日本6千件で20倍以上の開き。2016年の統計では中国商標出願件数は225万件と日本10万5千件で20倍以上である。いずれも中国出願は日本ばかりか世界を圧倒し、特許や商標の出願が増加している。これには、2008年に中国国務院から交付された「国家知的財産権戦略要項」で目標値が定められ、各地で補助金を投入し計画的な専利権等の取得奨励がなされていることが影響しているとされる。こうした状況下、中国ビジネス展開の際は専利や商標の調査をしておくことが益々大切である。現在第4次専利法改正案作業が行われており日本にとってより活用しやすい制度になることが期待される。


【知財権紛争の救済】

 中国における知的財産民事訴訟件数を、図2に示す。著作権案件の訴訟件数が突出しているが、2016年の商標権案件で2万7千件、専利権案件で1万2千件となっている。日本では2016年以前に産業財産権のうち最も件数の多かった特許権の民事訴訟件数が2004年で217件にすぎず、これに意匠権と実用新案権を加えた合計も年間3百件以下と、中国とは桁違いの開きがある。中国で産業財産権を保有する多くの日系企業が手続きの簡易な行政機関への侵害の取り締まり申し立てを活用しているが、実効性に乏しいとされている。一方、近年中国における特許の民事訴訟の一審において権利者の勝訴割合が日本と比べて高く推移し、外国企業にとっても特段不利な判決にはなってはいない(岡山大学経済学会雑誌49,2018,p19)。中国における侵害対策のために産業財産権を保有していなければ対処が困難となるため、権利取得が大切であることは日本と変わりない。中国では近年の法制度改正や知財意識の向上政策が実行されており、模倣の国だからとあきらめず知財権を取得し活用すればビジネスはより安心という状況になりつつある。


【専利代理人の活用】

 外国企業が中国で専利を出願するためには特許事務所等の専利代理機関に委託する必要がある。専利出願の代理は試験をパスした専利代理人の資格を要する。知的財産を扱う代理業者も急増し、その信用度の問題も浮上してきた。そこで政府機関が所定のウエブサイトで業者へクレームを申し立てると信用度が減点される仕組みを公開しているほどである。一方、商標や著作権の代理人は代理資格試験が不要である。このため、一部に無資格で専利出願を代理する不適切な業者もあり注意を要する。この点、中国知財に詳しい日本の特許事務所を通じ専利代理人等を紹介してもらうことがより安心であろう。


【中国展開時の知財支援策】

 日本弁理士会ではホームページで知財面の海外展開支援を案内している。また、日本特許庁、(独)日本貿易振興機構、(独)工業所有権情報・研修館が運営する全国設置の知財総合支援窓口では、支援メニューとして、専門家との無料相談、出願や冒認出願・侵害対策の補助、知財訴訟費用保険の補助等を案内している。中小企業への支援件数も増加しており、支援策の積極活用が望まれる。

国際知財委員会 弁理士 菊池 猛


図1



図2
 

 

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