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意匠法の一部改正について~画像デザインの保護の拡充~

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 工業上利用できる(量産できる)デザインに関する法律「意匠法」の改正が予定されているのをご存知でしょうか。早くて2020年4月の施行となると言われていますが、現行意匠法から大幅に変わる事項もあり、注目を集めています。ここでは、特に大きな改正項目になると思われる「画像デザインの保護の拡充」に関して、ご紹介していきたいと思います。

 「画像デザイン」と聞いて、皆様はどういったものを思い浮かべるでしょうか。パソコンや携帯電話、スマートフォンに表示される画面、インターネットで商品を購入する際の注文画面、街頭や交通機関で目にするディスプレイ広告など、私たちの生活の中には様々な種類の画像デザインがあふれています。

 デザインについて「意匠権」を取得すると、そのデザインを独占的に実施(販売等)でき、他の人がそのデザインを実施するのをやめさせることができます。しかし、世の中にあるデザインの全てについて、「意匠権」を取得できるわけではありません。特に、画像デザインについては、世の中に存在している数多くの画像デザインのうち、ごく一部についてしか「意匠権」を取得できないというのが現状です。

 現行意匠法の下で「意匠権」を取得できる画像デザインは、(1)物品に記録されるもの、かつ、(2)物品に表示されるもの、でなければならないとされています。例えば、インターネットで路線を調べる検索画面は、サーバーからネットワークを通じて提供される画像で、スマートフォンなどに保存されているわけではないので(1)に該当せず、プロジェクターで壁に投影される画像は、ディスプレイなどに表示されるものではないので(2)に該当しません。これらの画像デザインについては、「意匠権」を取得できないというわけです。

 このような状況では、不都合なことも起こりえます。例えば、ある画像デザインについて「意匠権」を取得できたとしても、他の人が同じ画像デザインを、ストリーミングサービスで提供し始めたような場合、これをやめさせることはできないかもしれません。なぜなら、この他の人が実施している画像デザインは、(1)物品に記録されるものではないからです。また、他の人が同じ画像デザインを、壁に投影して使う商品を販売し始めたような場合も、(2)物品に表示される画像デザインではないので、これをやめさせることは難しい可能性があります。

 ユーザーにとっては、画像デザインがダウンロードしたものであろうがストリーミングで見るものであろうが、使用感はほぼ変わりません。表示場所が異なっても、同じ画像デザインからは同じ視覚的効果、つまりは同じ美感が生じます。それにもかかわらず、記録場所や表示場所によって、「意匠権」の対象となるかどうかが変わってしまうことがあり得る現状は、問題視されていました。

 そこで、今回の改正案では、画像デザインの記録場所・表示場所がどこであるかにかかわらず、「意匠権」を取得することができるようになります。この改正により、現状の不都合が解消され、「意匠権」を取得できる画像デザインの幅が広がります。

 一方、壁紙等の装飾的な画像などは、それなしでは物が成立しないような性質のものではなく、保護の必要性が低いと考えられており、今回の改正案によっても「意匠権」を取得することはできませんので、注意が必要です。

 現行意匠法は、「物品」との結びつきを強く求めてきました。今回の改正案は、「意匠権」を取得することができる画像デザインについて、「物品」と結びついている必要はないとするものです。その意味で、今回の画像デザインに関する改正は、大きな変革になると思われます。

弁理士 浅野 令子


【図表】物品に記録・表示されていない画像の例(経済産業省ウェブサイトより引用)


 

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