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標準って何?~身近にある標準と知財とのミックス戦略~

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 まずは現在のCOVID-19(新型コロナ)で影響を受けていらっしゃる方々にお見舞い申し上げます。

 さて、新型コロナでは、PCR検査という遺伝子に基づく感染症検査が感染の有無の判定に用いられました。実は、このような「検査」は、ある条件を満たさなければ何の意味も持たなくなってしまいます。その条件とは「標準」です。

 今回の騒動では各国でPCR検査が行なわれましたが、検査で重要なのは検査が決められた条件で行なわれているかということです。例えば、A国では「線が3本で感染」、B国では「線が2本で感染」といったように国ごとに基準が違うと、検査結果を比較できません。検査官ごとに基準が異なっていても、検査の信頼性が損なわれます。ですから、厳格な検査結果のためには、検査の方法、使用する機器、判定の方法など統一した基準が必要です。この「統一した基準」が「標準」です。

 実は、身の回りには医療の検査に限らず、数多くの「標準」が存在します。スマートフォンは、どのメーカ、どのOS、どのキャリアからでも、通話やネット通信ができます。この通信のための携帯通信網である既存の4Gや今年からスタートした高速大容量の5Gは、いずれも「標準」によって規格化されています。無線通信の「WiFi」も、この「標準」で規格化されています。他にも、単3とか単1とかの電池、そしてコンセントプラグなども技術的な「標準」になっているので、どこのメーカのどの機器でも簡単に使用することができます。他にも、鉛筆の「HB」や「2B」などは、芯の硬さなどの品質を示す「標準」です。「単3」電池がメーカごとに異なる大きさ、鉛筆の硬さ「HB」がメーカごとに違っていると困りますからね。

 この身近に溢れている「標準」ですが、当然のことながら、勝手に作ることはできません。国内ではJIS、国際的にはISOやIEEEなどの標準化機関があり、これらに「標準」として採用されることが必要です。そして、この「標準」に採用されるためには、技術的な資料を作成する必要があります。技術的思想である発明を出願して特許庁で特許を得る仕組みと似ています。

 ところで、特許の場合、技術を独占することで特許権者が利益を上げる仕組みです。これに対し、標準は、ユーザが安心して使用することができるように、技術を市場に広く普及させるための仕組みです。つまり、独占で利益を上げる「特許」と市場を拡大することで利益を上げる「標準」とは、実はある一面から見ると水と油の存在なのです。しかし、「特許」で独占しているだけでは市場の拡大は見込めませんし、「標準」で開放するだけでは競争力の高い相手の参入を許すこととなり、利益に繋がりません。

 そこで、近年、特許をはじめとする「知財」と「標準」とを組み合わせることで、「標準」によって市場を拡大しつつ、ポイントとなる技術を「知財」で押さえる「知財-標準ミックス戦略」が注目されています。繰り返しになりますが、「標準」によって多数の利用者を開拓してビジネスの機会を拡大しながら、「標準」を達成するための技術を「特許」などの知的財産で独占することにより、市場の拡大と独占とを高い次元で両立するのが、この「知財-標準ミックス戦略」のポイントです。

 実は、弁理士は、この「標準」に関する業務にも精通しています。弁理士法では、弁理士が取り扱う分野の1つとして「標準」が規定されています。ある技術から「知財」や「標準」を取り出して、どのようにミックスして利益を最大化するのか、ビジネスパートナーとして弁理士がお役に立てるものと思います。

 新しいことを思いついたら、弁理士に相談してみてください。

 弁理士 南島 昇

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