新聞掲載記事

タイ知財制度の現状と展望/弁理士 守田 賢一

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1.はじめに
 この10年、少なくともバンコクを見る限りは発展途上国から中進国への歩みを順調にたどっているように思われます。その一方で、知財の分野は経済の発展に追いついていない、というのが率直な感想です。

2.タイの特許制度の現状
(1)発明特許の審査請求時期
 発明特許の審査請求は出願公開後にしかできませんが、いつ公開されるかわかりません。したがって、審査請求がいつできるか判りません。早期権利化を図りたい場合に権利化時期の予定が立たない、という問題があります。
 ちなみに弊所のタイ出願の公開時期は、出願から10か月、2年7か月、7か月、2年4か月、1年4か月等と大きくばらついています。
(2)発明特許の審査能力
 審査官の数が絶対的に足らず、発明特許について実質的な審査はしていません。弊所では、登録された関連欧州出願の請求の範囲に合わせることで特許されたものが2件あり、登録された関連米国出願の請求の範囲に合わせれば特許するという通知をもらっているものが1件あります。
(3)PPH(Patent Prosecution Highway)
 PPHによって審査の促進を図る試みが近年行われており、日本とタイとの間でも行われています。登録された関連日本出願に基づいてタイ出願が速やかに特許され得る点で歓迎すべきものです。が、この場合も前述した出願公開時期の不明確性が権利成立予測上のネックになっています。
 PPHを使用した弊所の出願は、出願公開までに1年7か月を要した後、即座にPPHによる審査請求をしました。現地代理人によれば何もなければ8か月以内に登録されるだろうとのことです。とすればタイ出願から2年2か月程度で登録されることになり、従来の平均5~6年から大幅に短縮されることになります。

3.タイの商標制度の現状
(1)発明特許出願に比して商標出願が圧倒的に多く、その出願から登録までの流れは確立されています。ただし、商標の識別性については審査段階で特異な厳しさがあります。
(2)タイでビジネスを考える場合は、現状では、ある程度予測可能性のある商標(あるいは意匠)を中心に知財戦略を考えるべきであろうと思われます。

4.タイの知財訴訟制度
(1)特許裁判に関しては、小特許の侵害事件の最高裁判決を数件タイ語から英語に翻訳して検討した限りでは、請求の範囲の解釈が明確になされていないようで(これは訴訟代理人の問題である可能性も高いと思われます。タイ特許法には権利範囲は請求の範囲に基づいて定められるとの条項はあります)請求の範囲に則った発明思想の抽出がなされるのか不安があります。
(2)一方、商標裁判ではこれも数件をタイ語から英語に翻訳して検討した限りでは、審査段階での異常に厳しい識別性についての判断がCIPITC(中央知的財産国際貿易裁判所)や最高裁では修正されていると感じます。
 例えば、エビに与える餌を指定商品とする「AQUAFEED」、衣服を指定商品とする「ColorPlus」が識別性無しとして審査で拒絶されましたが、これはCIPITCで覆されています。

5.契約の重要性
 タイへの技術移転についてはタイで権利が成立していない、あるいは時期を失して権利取得が不可能になっている場合も多いと考えられます。この場合は、現地企業と個別にノウハウ等の提供についてのライセンス契約を結ぶことになるでしょう。この場合は、契約言語、準拠法、仲裁条項等の国際ライセンス契約に特有の問題が生じます。

6.おわりに
 タイはThailand4.0プランで技術の高度化を図り、労働集約的な発展途上国から、高度な技術やデザインを売りにする中流国への脱皮を目指しています。タイの知財制度の上述した問題は近いうちに解決を迫られることになるでしょう。

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