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特許の共同出願は慎重に

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 共同出願には、思わぬ落とし穴があります。こんな場面を想定すると、落とし穴が見えてくるかもしれません。


(ある会社の技術部で鈴木君が課長に得意げに報告しています。)

「例のプリンタ用の○○部品は、X社に採用が決まりました!」

「それは良かった。うちの新しい○○部品がなかったらX社も新製品を出せなかったはずだ。特許のほうも抜かりないだろうね。」

「もちろんです。X社とうちで特許を共同で出願することにしました。ですから、費用は半分で済みます。」

 そこへ、通りかかったのが営業部長さん。「聞いたよ。例の○○部品が完成したらしいね。あれは、どこでも欲しがるよ。さっそく、Y社とZ社にも話を持って行くつもりだ。こちらの方が、売上が大きいからね。」

 ところが、後日、X社との共同出願の書類案を持って、知財部長が技術部にやって来ました。「鈴木君。この特許まずいよ。うちの事業方針と合っていないじゃないか。」

「えっ、どうしてですか?うちの○○部品を使ったプリンタのことがちゃんと明細書に書かれていますよ。」

「プリンタの出願だからまずいんだよ。」


(ここで、解説)

 特許権の範囲は、明細書ではなく、特許請求の範囲に記載した事項によって決まります。特許請求の範囲の請求項に「…と、…と、○○部品と、…とを備えたプリンタ。」と書いてあれば、権利の対象は○○部品ではなく、プリンタです。

 知財部長が続けて、「うちは、○○部品をX社だけでなく、YやZにも売る方針だろ。でも、この特許があると、YもZもうちの○○部品を買えないよ。うちの部品を買ってプリンタに組み込めば、この特許の権利侵害になるからね。」

「でも、うちだって特許を持つことになるのだし、特許を持っているところから買ったものが権利侵害になるのはおかしくないですか。」

「いや、うちはプリンタの一部の部品を売るだけ、お客さんはうちの部品を使ってプリンタを作るのだから、プリンタの特許を持っている会社の承諾がいることになる。プリンタの特許は、うちとX社の共有だけど、X社はライバルのY社やZ社が○○部品を使ってプリンタを製造することを認めるはずがないよ。X社のプリンタの独自性がなくなるからね。」

「X社が認めなくても、共同で特許を持っているうちが認めればいいのでは。」

「いや、共同出願の場合には、それぞれの権利者が勝手に他人に特許の使用を認めることはできないんだよ(特許法73条)」。」

鈴木君ががっかりしたように言いました。「ということは、Y社もZ社もうちの○○部品を買わないということですか!」

「そう、この特許がある限り、欲しくても買えない。」

「それじゃ、うちはどうすればいいんです?」

知財部長が申し訳なさそうに言った。「ホントは、X社と共同出願することになる前に、うちだけで○○部品の出願をしておくべきだった。そうすれば、YにもZにも自由に販売できるはずだ。」

「でも、○○部品がプリンタで使えるようになったのは、X社での試作と技術開示があったからなんですよ。だから、うちとX社とで共同で特許を申請することが理にかなっていると思います。」

「そうだとしても、○○部品のコアの技術はうち独自のものだよね。それをうちが単独で出願しておくべきだったんだ。」

知財部長が続けて言いました。「もう一つ、心配がある。X社は部品の内製化を進めているらしいね。うちのライバル会社を買収して子会社化するという噂がある。そうなると、共同出願はなんの歯止めにもならない。原則、特許権の共有者は他の共有者の同意がなくても単独で実施できるからね。うちから購入しなくても、自社で○○部品を内製してプリンタを製造できるんだ。」

「えっ~!いまさら、共同出願を止めたいといえませんよ。」


(最後に)

このように、共同出願は難しい問題を含んでいます。特に、部品サプライヤと購入者側との関係では、サプライヤ側が不利になりがちです。この例の場合だと、鈴木君の苦境を救うのは、単独出願の部品特許です。鈴木君!○○部品をカバーできる単独特許を絞りだそう!今からでも遅くないよ

弁理士 後呂 和男

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