新聞掲載記事

書籍の出版と著作権/弁理士 相羽 洋一

  • 著作権

 英語では著作権をコピーライト(複製する権利)と呼びますが、これは印刷技術の発達に伴って出版が増加し、著作を出版する業者にその著作を独占的に出版(複製)する権利を与えて保護する政策がとられたたことが始まりといわれています。当初は著作者の権利は出版業者から間接的に利益を受けるものに過ぎませんでしたが、その後著作者の固有の権利としての著作権(複製権や上演・演奏権、公衆送信権などの個別の権利)が認められるようになりました。著作権は出版との強い繋がりから生まれたといえます。日本の現行著作権法(以下単に「法」といいます。)も出版権について規定していますが(法七九条以下)、これは著作者ではなく出版者の権利として扱われているのです。
 もっとも複製権自体は著作者の権利とされていることから、出版権は著作者の承諾(出版権設定契約)によって初めて著作物を独占的に出版する(複製して譲渡又は貸与する)権利として出版者に与えられものとなっています。なお、平成二六年改正によりいわゆる電子出版が認められ、デジタル媒体に記録してその媒体を譲渡若しくは貸与し、又はそれを用いて公衆送信(配信)することも同様とされています。また、出版権者が独占的出版権を第三者に対抗するためには登録をしなければなりません。さらに費用に関して言えば、一般的には出版費用は出版業者が負担し、著作者には著作物利用料として販売数に応じた金銭(いわゆる印税)が支払われます。
 出版権にはもう一つの特徴があり、出版の義務が定められております。それは出版者が著作物やその電磁的記録等を受領した日から六か月以内に出版若しくは電磁媒体の譲渡等をしなければならないこと、及び慣行に従い継続して出版若しくは公衆送信しなければならないことです。出版権者がこれを怠れば著作者は出版権設定契約を解除することもできます。
 このように著作権法の出版権は、著作者の権利ではなく出版者の権利であり、かつ義務を伴う特別な権利であるとご理解下さい。
 ところで、著作者が出版や電子出版をしたいという場合、常に出版権設定契約をしなければならないかといえばそうではありません。
 最も単純な方法としては著作物についての著作権を出版希望者に譲渡することです。著作者は譲渡代金を取得し、後は出版者が好きに出版してくれればいいという場合です。
 書籍の販売について自分で管理したい場合には、書籍の制作を自費で印刷業者等に依頼し、販売は独自のルートで行う方法もあります。自費出版もその一つですが、出版業者に依頼すると出版権設定を求められることがあります。
 さらにいえば、自分の主張や作品などを公表するのに、昨今はSNSがよく利用されています。手軽なだけでなく多大の効果を挙げることもできます。
 出版でもSNSでも自己の著作物を内輪に止まらず世間に公表するものですからその中に他人の著作物が無断で使用している場合には他人の著作権を侵害していると主張されることがあり得ます。したがって、自己の著作物には他人の著作物を使用しないよう注意する必要があります。著作物のように見えても創作性がないなど著作物に該当しないものや、著作権者が無料での利用を認めて公開しているもの(いわゆるフリー素材)であれば構いませんが、それ以外は著作権者の利用許諾を得なければなりません。許諾なしに他人の著作物を利用できるのは、引用(法三二条)、写真等における写り込み(同三〇条の二)や公開の美術作品等(同四六条)など極めて限定的な場合に限られますので注意が必要です。
 出版やSNSを利用する際には著作権についてのある程度の知識が必要ですから、文化庁のホームページからダウンロードできる「著作権テキスト」などを参考にされるといいでしょう。

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