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先に使っていれば大丈夫?~商標の先使用~/弁理士 本田 彩香

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 「自社商標と似た商標の商標権が、他人により取得されていた。うちは以前から使っているから侵害警告を受けても大丈夫ですよね?」このような質問をたまにいただきます。いかが思われますか?今回は商標の先使用権をご紹介します。
 はじめに商標権について少しご紹介します。商標権は特許庁への出願・審査を経て取得できます。審査はいわゆる早い者勝ち制度(先願主義)の下おこなわれます。他人が既に使用・公開している商標でも、先に出願すれば一定条件の下商標権を取得できます。この権利は独占排他権です。同一又は類似商標の同一又は類似指定商品及び役務への、他人による使用を禁止し得ます。効力は日本全域です。
 また、商標は文字などの組合せにより創作されます。文字数は平仮名46文字など限りがあるため、組み合わせられる素材は限られます。そのため、商標創作の経緯や想いは独自のものであっても、組合せが他人のものと重複することがあります。
 ここで先使用権が登場します。商標権者の出願前から未登録商標の使用を続けている者が、その商標の継続使用を認められる、商標法の例外規定です。
 しかし、先使用権は発生条件が多く成立が難しいです。特に、商標を使用していただけでは成立せず、使用商標が周知である必要があります。また、周知性の基準は高いです。例えば、たこ焼工房商標権侵害事件(平成31(ワ)784)では、被告は原告の商標出願前15年以上にわたり愛知県の飲食店にて商標を使用していました。同店は最大42店舗まで展開され、年間売上は約14億円でした。しかし、使用商標は周知性なしと判断され、被告は損害賠償支払いが求められ、使用をやめました。
 また、先使用権が成立しても使用制限があります。使用が認められるのは、原告出願前に被告が使用していた商品・役務のみ及び使用地域のみです。アイネイル商標権侵害事件(平成23(ワ)38884)でも、その商標を「無限定に」使用できるわけではない旨が判示されました。また、先使用権者に“商標権者の商標と区別できる表示”を付すよう求められることがあります。例えば商標権者の商標XYZに対して、先使用権者は地域名を付した「伏見XYZ」の使用を求められ得ます。そして、他人が同一・類似の商標を使用していても禁止できません。
 先に使っている商標でも、残念ながら先使用権では安心できないのが現状です。自社の商標を守るには、「商標権」の取得を是非ご検討ください。

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