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「知財金融」のススメ~知財ビジネス評価書の活用~/知財金融対応委員会 弁理士・弁護士 加藤 光宏

  • 戦略/活用

◆「知財金融」とは
 「知財金融」という言葉を聞く機会が少しずつ増えてきました。知財金融とは、知的財産権(特許権、意匠権、商標権など)を担保に融資を受けることだけを意味するものではありません。金融機関が融資を行う際に行う事業性評価(融資先の事業内容やその成長可能性などの評価)において、知的財産もその要素として考慮すること、さらには、金融機関が、企業の有する知的財産を考慮して、その本業支援を行うということまでも含むようになってきました。
 特許庁は金融機関に対して、「知財金融」とは、「金融機関が取引先企業に対し、自社の強みを活かして将来構想を実現できるように専門家とともに経営支援策の提案を行う取り組みです。」と説明しています(特許庁「知財ビジネス評価書(基礎項目編)作成の手引き」より)。ポイントは、企業の強みを活かすという点と、経営支援という点です。知的財産とは、まさに企業の強みに直結するものです。経営資源としての「知的財産を経営に活かす」という点が、知財金融の柱になっているということが言えるでしょう。

◆知財ビジネス評価書の活用
 「知的財産を経営に活かす」ために、特許庁が2022年6月に公表した「知財ビジネス評価書」を利用するのが良いかも知れません。金融機関向けに作成されたものですが、一般企業にとっても有用なものです。
 知財ビジネス評価書は、企業概要シート、ええとこSTEP®など7枚のシートで構成されたツールです。「知財ビジネス評価書」「ひな形」「手引き」などで検索すればたどりつくことができるはずです。誰かに評価してもらうためのものではなく、金融機関や企業が記入し作成するものです。
 評価書は、全ての欄を埋めてそれぞれのシートを完成させることが目的ではありません。シートを作成しながら、いろいろな視点で企業や経営を見つめていくことに意義があります。全てのシートを作成する必要もなく、一部のシートだけを作成しても構いません。シートを作成する際には、弁理士などの専門家を活用することも有用だと思います。
 知財ビジネス評価書のうち、「ええとこSTEP®」(図参照)は、企業の強みを見いだすためのツールです。「顧客利便価値」が特に重要です。ここには、顧客に提供している価値を記入します。企業の商品やサービス自体が「利用価値」ではありません。顧客が、その企業の商品・サービスのどこに「価値」を見いだしているのかということです。この価値こそが、企業の「強み」につながります。
 一通り記入した後、もう一度、全体を見直してみると良いでしょう。各項目は、顧客に提供している価値を、いろいろな視点で分析しているものですから、本来ならば、全てつながってくるはずです。しっかりと検討することで企業の「強み」と、それを支えている「とりくみ」が見えてくるはずです。

◆知的財産権の役割
 せっかく見いだした「強み」は、他社にマネされないように護りたいところです。強みを知った上で、知的財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権等)を取得することで、自社の事業を守るための障壁を作ることができ、自社の事業を護ることができるのです。

◆まず始めてみましょう
 知財金融に取り組むためのツールとして、知財ビジネス評価書を紹介しました。なかなか最初から有益な取り組みが実現できるものではありませんが、まずは始めてみることが大切だと思います。日本弁理士会東海会は、知財金融への取り組みを支援させていただきますので、是非、ご相談ください。


図:ええとこSTEP®<特許庁「知財ビジネス評価書(基礎項目編)より引用>


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