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特許侵害警告を受けたら?~落ち着いて、誠意ある対応を!~

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     特許権侵害の警告は珍しいものではありません。特許権が独占権である以上権利者としても他者の実施を放置しておくと時効完成などの不測の不利益を受けることがあるので、やむを得ず通告することもあります。一般的な警告は弁護士、弁理士の内容証明郵便による書面で、「被疑侵害物件(物、製法)の実施(製造販売など)は通知人の特許権を侵害するから、直ちに停止して、実施状況(数量など)をいつ(2週間程度)までに報告せよ」というものです。いわば、特許戦争の宣戦布告です。
     侵害警告に対しては「対応しない」ことも含めて自由ですが、事案によっては裁判事件に発展し(なお権利者の戦略上警告なしでいきなり裁判ということもあります)、手間、時間、費用を要し、刑事事件も視野に入れなければならないこともあります(例えば近時の磁気センサー事件など)。もし警告が初めてであれば、とりあえず専門家、例えば当欄の日本弁理士会の無料相談などを利用されることをおすすめします。経験のあるベテランボランティアが道筋をアドバイスします。落ち着いて、誠意ある対応をすることが肝要です。誠意ある対応とは、やはり理の通った丁寧な主張です。
     警告を受けたら、まず(1)自社実施物件、次に(2)相手方特許権、そして(3)対応、に分けて考えましょう。
    (1)侵害だとされる自社実施物件を特定しその内容を確認します。警告書には具体的な記載や特定がない場合があり、そのような場合には、相手方に製品名や品番などを確認すべきです。なお、実施予定(検討中)のものについて警告を受けることもしばしばありますが、実施停止ならばその旨回答します。
    (2)相手方特許権については、特許公報、権利者名、出願経過、登録状況(年金納付)などの基本的、形式的事項は特許庁の電子情報で知ることができます。特許権の内容については、特許発明の技術的範囲、特許の有効性(無効理由の有無)について精査する必要があります(後述)。
    (3)対応については、自社の事情(実施の継続か、停止・変更可能か)と、相手方の事情(請求の強弱、硬軟)も配慮しなければなりません。警告を受けた側としては、自他の状況を考慮して、①実施停止、②実施継続、③設計変更、④実施権(ライセンス)交渉などの方策(選択肢)があります。いずれにしろ、相手方との話し合いをすることになります。何はともあれ、権利者は実施者の回答を希望していますから、その対応をすべきです。


    特許侵害の要件

     自社物件が相手方特許権の侵害となるかどうかの判断は、3つの点から検討します(図参照)。まず、①特許無効理由の存否です。特許権に「特許無効の理由」がある場合には特許権は行使できません(特許法(以下略)104条の3)。無効理由は進歩性(29条)や記載要件(36条)など拒絶理由とほぼ同じです。次に、②技術的範囲の属否です。特許権の効力は「特許発明」の実施を専有することで(68条)、特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲に基づいて定められます(70条)から、自社物件が相手方特許の権利範囲に入らなければ特許権の侵害になりません。三つ目は、③正当理由の存否です。自社物件の実施に法の定める正当理由があるかということで、先使用(79条)などの法定実施権がある場合や、試験研究(69条)などの法律で権利が及ばないとされる場合です。
     特許侵害事案では上の3つ、特に①②の理由の攻防が熾烈に行われ、特許庁(審判)、裁判所(地裁、高裁)と場所と時間・費用がかかるばかりでなく、多くの専門家が関わり、結果の予測が極めて困難だと経験上率直に言わざるを得ません。もっとも、相手方の特許権者にあっても、同様に、これらのハードルをクリアして初めて実施の差し止めや損害賠償の請求が認められるのです。


    実施者の対応(柔軟性も大事)

     侵害警告を受けた側の対応としては、①争う、②争わない、③話し合う、という選択肢があります。状況にもよりますが、いきなりけんか腰で争うのではなく、設計変更とかライセンスなど、争わないとか話し合いという柔軟な方策も考えておくべきだと思います。
     前述のような侵害の要件を考えつつ、自社物件の設計変更の準備や相手のライセンスの可能性も検討しましょう。現実的な対応として、侵害となった場合の自社物件の販売停止や損害賠償金の支払いなどの影響についても考慮すべきです。筆者の経験としては、設計変更がそれほど難しくない場合もあり、設計変更によって差し止め請求が回避できれば、争い方の負担も楽になります。また、権利者としても金銭賠償やライセンスで満足する場合もあります。
     なお、特許侵害の裁判事案になった場合でも、裁判所は紛争を解決することが主務ですから、適宜当事者に和解の話し合いを勧め、その結果概ね半数以上、筆者の感覚では8割くらいが和解で終了します。ということは、紛争の端緒となった侵害警告もこじれて裁判に発展したとしても最終的に話し合いということになるのであれば、両当事者はできるだけそのような話し合いの努力をすべきかもしれません。

                                                                   弁理士 後藤 憲秋

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