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特許出願しない技術の保護~特許の先使用権~/弁理士 山田 健

新聞掲載記事
  • 特許(発明)
  • 権利取得

 特許出願せずに、自社技術を使用して事業を行っていると、ある日突然、他社から特許権侵害訴訟を提起されることがあります。このような訴訟の対抗策として、先使用権を主張することがあります。先使用権は、他者(他社)がした特許出願の時点で、その特許出願に係る発明の実施である事業やその事業の準備をしていた者(自社)に認められる権利です。先使用権が認められると、先使用権者(自社)は、他社の特許権を無償で使用しつつ事業を継続できます。なお、先使用権は、裁判所が認めることで効力を有するものであり、特許庁に登録するものではありません。
 冒頭の事例の場合、他社よりも先に特許を取得しておけば、他社からの訴えを回避できますが、特許の取得には、必ず発明の開示(技術内容の公開)がともないます。そのため、技術内容によっては特許出願したことで、かえって市場優位性が損なわれてしまうことがあります。例えば、公開しなければ競合他社が到達困難な技術や、特許権を侵害されても発見が困難な技術(工場見学しなければ分からない製造プロセスなど)の場合は、特許出願せずにノウハウとして秘匿化する方が、技術を有効に保護できることがあります。
 近年、このように特許出願せずに技術を秘匿化して保護することの重要性が高まっており、その一環として先使用権の活用が注目されています。先使用権の成立要件は、①(特許出願の発明と関わりなく)独自に発明し、又はその発明を承継したこと、②事業の実施又は事業の準備をしていること、③他者(他社)の特許出願時に②を行っていたこと、④日本国内で②を行っていたこと、の4つです。将来、起こり得る他社からの特許権侵害訴訟に備えて、発明の完成から、事業の準備、実施に至るまでの一連の事実を立証できる資料を、日頃から積極的に収集して残しておくことが望まれます。先使用権の証拠収集は、事実を立証するための証拠を、段々と積み上げていくイメージに例えられます(図参照)。発明の完成までは、研究ノート、技術成果報告書、設計図、仕様書などを収集し(図の証拠A)、事業の準備から事業の開始後は、設計図、仕様書、見積書、請求書、工場の作業日誌・製造記録、カタログ・商品取扱説明書、製品自体、販売の伝票などを収集します(図の証拠B~D)。先使用権の詳しい情報は、特許庁の公開資料「先使用権制度の活用と実践」、「先使用権制度の円滑な活用に向けて(第2版)」をご参照下さい。

特許庁「先使用権制度の円滑な活用に向けて(第2版)」より引用
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