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知的財産権の使い方/弁護士・弁理士 清水 亘

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 今は昔。もうかれこれ15年くらい前のことになりますが、ある案件のライセンス交渉のために、頻繁に中国に出張していました。いまは飛ぶ鳥を落とす勢いの中国ですが、当時は、沿岸部でも、まだこれから発展する余地がたくさん残っていて、次の時代に向けたエネルギーに満ちていました。北京には既に高層ビルが立ち並んでいて、道路はあちこち渋滞し、PM2.5(もはや死語でしょうか)で、毎日、霧が立ち込めているように淀んだ空気でした。東北部は見渡す限りの平原で、こんな場所でかつて日本は戦争をしたのか、と感慨深く思いました。
 さて、新しい技術に関する知的財産権のライセンス交渉は、目に見えない知的財産権に対する当時の中国の人たちの理解不足と、高額な対価(ライセンス料)の支払いを巡って、大いに紛糾しました。いよいよ、相手方企業の技術部門トップと対峙した際、私は、交渉団を代表して、知的財産権のライセンスには対価を支払うのがグローバルスタンダードであり、WTOに加盟した以上、中国もそれに従うべきである、と説明しました。それを聞いた相手方企業の技術部門トップは、深いため息とともに、最後にこう言いました。「なるほど分かりました。知的財産権は、こうやって使うのですね。でも、その金額は、いまの中国には高すぎます。」そして、ライセンス交渉は決裂しました。
 その後、中国は、年を追うごとに知的財産権の出願件数を増やし、世界で最も出願件数の多い、知的財産権大国になりました。知的財産権は、出願と維持にコストがかかりますので、必ずしもたくさん保有すればよいものではありませんが、現在の中国の出願は、質においても世界トップレベルであるといわれています。少なくとも、現時点では、中国の人たちが、知的財産権を保有する意味を理解し、知的財産権をてこにして、世界のビジネスを席巻しているといって過言ではないでしょう。
 いまこそ、今度は我々が、知的財産権をなぜ保有し、どのように使うのか、改めて考えてみるべきではないでしょうか。

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