新聞掲載記事

商標権~同じ商標を登録できるか~/弁理士 清水 聡

  • 商標(ブランド)

 商標権を取得すると、自己の商品または役務(サービスのことです)について、商品名や、ロゴ、商号などを独占的に使用することができます。商標権はとても強力な権利です。しかし、これから事業を始めようとする人にとっては、逆に事業参入の障壁になってしまうかもしれません。自分が使おうと考えていた商標と同じ商標が既に登録されていた場合、あきらめなければいけないのでしょうか。

 実は、必ずしもあきらめる必要はありません。表1をご参照ください。表1に、三菱鉛筆のロゴと、三菱商事のロゴを記載しました。三菱鉛筆は、文字通り鉛筆メーカーです。皆さんも使われたことがあるのではないでしょうか。一方、三菱商事は、幅広く商品を扱う総合商社です。表1を見比べると同じロゴにしか見えません。しかも、両方とも登録番号が付いているということは、両方とも商標権として登録されているということです。なぜでしょう?

 それは、商標権は、商標と、商標が使用される商品または役務と、の組合せで登録されるからです。このため、ロゴなどの商標が同じでも、商品または役務が異なる場合には、両方とも登録される場合があります。再び表1をご参照ください。商品または役務の欄を見ると、三菱鉛筆の方は色鉛筆などの鉛筆関連の商品を対象としています。

 一方、三菱商事の方は、余りに多いので一部省略していますが、鉛筆関連の商品は対象としていません。このように、商品または役務を異ならせることにより、同じ商標でも商標権が共存可能な場合があり得ます。なお、厳密には類似群コードという特別な指標を使うのですが、大まかには商品または役務で区別することができます。

 もう1つ例を挙げましょう。表2に、株式会社ニデック(以降、(株)ニデックと記載)と、ニデック株式会社(以降、ニデック(株)と記載)の登録商標を記載します。会社名を考えますと、どちらも絶対に商標登録したかったであろうと想像できます。登録番号が付いていることから、どちらも商標登録されています。(株)ニデックの商品または役務を見ますと、眼鏡、コンタクトレンズなど、眼鏡関係となっています。眼科で視力検査の時に気球の絵を見たことは有りませんか。気球の絵は、(株)ニデックの機械で使われているものです。

 一方、ニデック(株)の登録商標の商品または役務は、電気かみそりなどの電気製品です。ニデック(株)は、以前は日本電産という会社名で、モータ事業を中心にした会社です。やはり、商品または役務が両社で異なっています。

 このように、同じ商標でも、商品または役務を先の登録商標と異ならせることで、使いたい商標を登録することができる場合があります。

 では、商品または役務が完全にかぶってしまったら、その商標は全く使えないのでしょうか。いくら商標権は早い者勝ちとはいえ、後から市場に参入する場合に、余りにも不利に思われます。実は、令和5年商標法改正により、商標や、商品または役務がかぶった場合でも、先に登録した商標権者の承諾(コンセント)を得ており、かつ、先に登録された登録商標と、後から出願しようとする商標との間で混同を生ずるおそれがないものについては、登録が認められることとなりました。コンセント制度といいます。先に登録した商標権者と交渉する必要はありますが、コンセント制度を利用することにより、使いたいと考えていた商標をあきらめなくていい場合があるかもしれません。詳細は、専門家である弁理士にご相談ください。

ページトップへ