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お米と知的財産権/地域資源IP委員会 弁理士 宮崎 篤嗣

新聞掲載記事
  • 商標(ブランド)

 お米は、日本の文化を象徴するものの一つです。みなさんも毎日のように口にするものではないでしょうか。私たちの生活とは切り離せないお米にも、実は様々な知的財産権が絡んでいます。具体的には、お米の育て方に関する特許権、お米の名前に関する商標権、お米の品種名に関する育成者権などがあります。今回は、商標権と育成者権について見てみましょう。

 「愛ひとつぶ」というブランド米をご存じでしょうか?愛ひとつぶは、愛知県のブランド米です。あまみともちもち感を特徴としており、要件を満たす登録生産者に生産され、一定の基準を満たしたお米だけが愛ひとつぶとして販売されます。愛ひとつぶは、愛知県と愛知県経済農業協同組合連合会を権利者とした商標登録がされています(登録番号第6233753号)。

 しかし、愛ひとつぶの品種名は「なつきらり」といいます。なつきらりは、愛知県農業総合試験場により開発された品種です。なつきらりは、愛知県を権利者とした品種登録がされています(登録番号第26125号)。このように、商標権として保護されている「愛ひとつぶ」と、育成者権として保護されている「なつきらり」はなぜ名前が違うのでしょうか?

 商標権は、商標法によって規定されています。商標権は、商品や役務(サービス)の名前やマークなどを独占的に使うことができる権利です。愛ひとつぶは、米、米粉、おにぎり、弁当、苗など10以上もの商品に対して登録されています。このため、米などの商品について「愛ひとつぶ」という名前をつけて販売することは、権利者や権利者から許可を貰った人しかできません。また、商標権は、更新手続きを行うことにより、半永久的に権利を維持することができます。

 育成者権は、種苗法によって規定されています。育成者権は、品種の種子や苗などの生産、販売などを独占的に行うことができる権利です。つまり、権利者は、米粉、おにぎり、弁当といった加工品に対しては、何ら権利がないのです。また、育成者権は、「品種名の使用」を独占できる権利ではありません。このため、権利者以外の人も「なつきらり」という名称を使用できてしまいます。育成者権は、登録から25年です。権利期間の経過後は、権利者以外の人も品種の生産、販売などを許可なしで行うことができてしまいます。

 では、商標権と育成者権で同じ名前を登録してしまえば、全てをバランスよくカバーできるのではないかと思われる方もいらっしゃると思います。しかし、商標法では、品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であって、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするものは、商標登録できないことが規定されています(商標法第4条第1項第14号)。

 また、種苗法では、出願品種の種苗に係る登録商標又は当該種苗と類似の商品に係る登録商標と同一又は類似のものであるとき(種苗法第4条第1項第2号)、出願品種の種苗又は当該種苗と類似の商品に関する役務に係る登録商標と同一又は類似のものであるとき(種苗法第4条第1項第2号)には、品種登録できないことが規定されています。このようにそれぞれの法律で、同じ名前が登録できないようになっています。商標法は、名称を独占的に使用できるようにすることで、ブランド力を保護するための法律です。これに対して種苗法は、登録された品種を広く円滑に流通させるための法律です。このようにそれぞれの法律の性格の違いから、重複した名前の登録が許可されていません。

 商標権と育成者権は、片方だけでは権利範囲の漏れができてしまいます。両方を組み合わせることによって、ブランド米のブランド力は保護されているのです。



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