タイの模倣品対策の概要と模倣品市場の現状~バンコク派遣報告(前編)~/国際知財委員会 弁理士 伊藤孝太郎
新聞掲載記事- 弁理士会
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愛知県は、海外へ進出した県内企業を支援するため、現地における支援拠点として、中国(上海)及びタイ(バンコク)に「海外産業情報センター」を設置し、また、中国(江蘇省)、ベトナム、インド及びインドネシアに「愛知県サポートデスク」を設置して、相談対応や情報提供を行っています。
日本弁理士会東海会は、バンコク産業情報センターの活動に協力する目的で、今年2月にバンコクで知的財産に関する講演会をさせて頂きました。この講演会では、前半で特許と商標の制度について解説し、後半ではタイの模倣品対策について解説しました。なお、模倣品対策の解説にあたっては日本貿易振興機構の「タイ模倣対策マニュアル」を参考にさせて頂きました。また、講演会の翌々日には、模倣品市場の現状を把握するため、バンコクの市場とショッピングモールを視察しました。そこで、今回のバンコク派遣で講演した内容と視察で得た情報にもとづき、タイにおける模倣品対策の概要と模倣品市場の現状について、今月と来月の2回にわたり紹介いたします。
タイにおける模倣品対策としては、主に、行政的救済、民事救済、刑事救済が挙げられます。
まず、行政的救済とは、タイ知的財産局(DIP)に捜査及び捜索・差押えの申立てを行うものであり、DIPが内容を精査したうえで、警察又は法務省特別捜査局(DSI)に対して捜査又は捜索・差押えの実施を求めるものです。特許権侵害等、知的財産権に関する高度な知識・判断が求められる事案の場合に円滑な捜査の実施が期待できます。
次に、民事救済とは、民事裁判を通じて損害賠償、侵害行為の中止・停止、模倣品の没収・破棄等を請求するものですが、侵害及び損害の立証が容易でないこと、仮に勝訴した場合でも侵害者に資力がなく十分な賠償を受けられないことも多いことなどの理由から積極的には利用されていないようです。
また、刑事救済とは、警察・DSI及び検察による捜査並びに刑事裁判を通じた救済手段ですが、侵害行為を直ちに終結させる可能性が高いと考えている権利者が多いことから、商標法及び著作権法違反に対する救済手段として積極的に利用される傾向にあるようです。
日本貿易振興機構「タイにおける模倣品流通動向調査」より
更に、商標権又は著作権をタイの税関に税関登録しておくことにより、模倣品のタイ国内への輸入を差し止めることが可能となります。なお、特許権、小特許権及び意匠権は対象となっていません。
一方、タイは、オンライン取引も活発であり、ASEAN 諸国で2番目に大きなインターネット経済圏であると言われています。模倣品がECサイトにおいて販売されている場合には、民事又は刑事救済を求めることも可能ですが、ECサイトでは出品者や販売者の情報が不明又は虚偽であることも多く、1件当たりの被害額はそれほど大きくないことから、ECサイトの運営者に対して、模倣品のサイト上からの削除や模倣品の出店者の排除等のテイクダウンを求めることが多く行われています。タイにおいて大きなシェアを占めるLazada及びShopeeもテイクダウンの申請ページを設けています。
バンコクは東南アジアにおける商業の中心地であり、多様な商品が流通する一方で、模倣品の取引が問題視されています。オンライン取引を通じた模倣品の販売に対しては、初期的かつ最低限の対応として、テイクダウン対応を行っている日系企業は多いようですが、模倣品市場全体を見るとまだまだ十分な対応はされていないように思われます。
弁理士は、国内の模倣品問題だけでなく、タイ、その他の外国での模倣品問題に関してもご協力が可能ですので、ご不明な点がありましたらご相談下さい。
来月はタイにおける模倣品市場の現状について紹介いたします。