タイの模倣品対策の概要と模倣品市場の現状~バンコク派遣報告(後編)~/国際知財委員会 弁理士 伊藤 孝太郎
新聞掲載記事- 弁理士会
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先月のタイにおける模倣品対策の概要の紹介に続き、今月はタイにおける模倣品市場の現状について紹介いたします。
日本弁理士会東海会は、今年2月のバンコク派遣において、タイにおける模倣品市場の現状を把握するため、クロントム市場とMBKセンターを訪問し現況を調査しました。
クロントム市場(通称「泥棒市場」)は、バンコクのチャイナタウン近くに位置するローカル市場で、地元の人々が日常的に利用する市場です。「泥棒市場」と呼ばれる由来は、第2次世界大戦終了前までこの一帯で盗品が売買されていたことによるようです。
クロントム市場は、照明器具、音響機材、スマートフォンのアクセサリーや中古の電子機器、ガスコンロや調理器具、フィギュアやぬいぐるみ等、多様な商品が販売されています。また、DIYに使える工具や電化製品の修理に使える部品も取り扱っており、新品と中古品が混在しています。観光客向けの商品は少ない印象で、地元の住民以外は見かけませんでした。外観だけで明らかに海賊版と分かるDVDやCD、Tシャツなどは別として、この市場では正規品と模倣品が混在しており、料金まで確認しないと模倣品であるか判断するのは難しい状況でした。
一方、MBKセンターは、バンコク・パトゥムワン区に位置し、地上8階建て、89,000㎡の売り場に約2500の店舗が入居している巨大ショッピングモールです。1階は洋服、食品等、2階はバッグ、洋服等、3階がファッション雑貨等、4階はデジタルガジェット、ゲームソフト等、5階は家具、カメラ等、6階が土産品、フードコート、そして7階がゲームセンター、映画館となっており、個人商店のような店舗から、規模の大きな業者のショップまで、多様な構成となっています。
特に印象に残ったのは4階のフロアで、圧倒的な件数のモバイル関連店舗が並んでおり、秋葉原のような雰囲気があります。ここでは「スーパー・コピー」と日本語で声が掛かることが多々あり、ブルートゥース・イヤホンを手にとってみたところ、正規品が数万円するのに対し、模倣品は数千円という価格で、こちらが黙していると、すかさずディスカウントの申し出をしてきました。店側は正規品に関しては値引きしないという態度を守っており、販売者が正規品と模倣品を明確に認識した上で売り方を変えていることが確認出来ました。
クロントム市場とMBKセンターは、バンコクにおける代表的なショッピングスポットですが、それぞれ異なる特徴を持っています。前者は地元の人々に親しまれるローカル市場で、観光客向けの要素は少なく、一方後者は多様な商品が揃う大型ショッピングモールで、観光客にも人気があります。両市場共に、真正品と模倣品が混在している状態が見受けられ、現地の消費者の中には、模倣品であることを知りつつ購入している層が一定数以上存在すると考えられます。
販売者の販売姿勢と、それを受け入れる消費者の購買行動によって、模倣品も相当程度売れてしまうため、こうしたマーケットが成り立っているのだと推測されます。そして、その規模の巨大さ故に模倣品市場は容易にはなくならない状況にあると思われます。現地に進出する日本企業は、模倣品対策を精力的に進めていますが、模倣品がここまで根深く市民社会に蔓延している為、現状改善にはまだまだ時間がかかるものと思われます。
タイにおける模倣品対策はなかなか容易でないことが予測されますが、模倣品対策を行う前提として、タイ国内で特許権、商標権等の知的財産権を取得しておくことが重要かつ必須の条件となります。弁理士は、国内の知財に関する問題だけではなく、外国での知財問題に関してもご協力が可能ですので、ご不明な点がありましたらご相談下さい。
MBKセンター

