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創業社長が急逝 知財はどうなる/弁理士 南島 昇

新聞掲載記事

     ある日突然、人が亡くなると、様々な手続が発生します。特に、遺産の相続は、今や「争続」ともいわれ、小説や映画になるほどのドラマが展開されます。土地やお金などの身近な「財産」はピンときますが、特許などの知的財産もその名の通り立派な「財産」です。ここで、知的財産の相続にまつわる一つの「フィクション」に基づいて、知的財産ならではの相続の注意点をご紹介します。

     ある精密部品メーカで、長年、開発の第一線に立ってきた創業社長が急逝。主力製品には社長自身が発明者そして特許権者となったいくつもの特許技術が使われていました。遺族と社員が気にしたのは、「特許と会社はこれからどうなるのか」でした。

     特許権などの知的財産も、遺産となる「財産」として相続の対象です。特許権者が個人であれば、その人が亡くなった時点で、法定相続人つまり遺族が権利を承継します。

     ところが、その特許を実際に使っているのは、個人ではなく、社長が経営していた「会社」です。この場合、生前、会社は社長の特許権を使わせてもらっていたという形になり、社長が会社に対して特許の使用を邪魔することはないので、会社は特許を自由に使用することができました。しかし、社長の死後、会社は相続人である遺族から特許を「使わせてもらう」立場になります。遺族が特許などに明るくなかったり、経営に距離をおいていたりすると、会社は、遺族から「使用料を払え」、「ロイヤリティは○億円」といった要求を受けるかもしれません。

     特に困るのは、相続人となる遺族が複数存在しているケースです。特許権が複数の相続人に相続されると、「共有」という状態になります。特許権は、ライセンスや移転を行おうとするとき、原則として共有者の全員の同意が必要です。仮に、故社長の長男が事業を引き継いだとしても、他の遺族の同意がなければ、以前のように自由に特許を使うことができないといった事態が起こるかもしれません。

     一方、特許権の名義が「会社」であれば、話はシンプルです。社長が発明者であっても、会社に特許権が帰属していれば、社長の死後も特許を所有する権利者はあくまで会社であり、相続からは切り離されます。しかし、現実には、「会社で使っているのに特許の名義は社長個人」という例は少なくありません。商標登録も同様であり、中小企業では、社名などの商標登録が社長個人の名義というケースも珍しくないでしょう。平時には問題が表面化しませんが、社長が病気や事故で急逝した瞬間に相続と事業継続の双方で火種となります。

     こうしたリスクを避けるには、普段からの準備が重要です。まず、会社で使っている特許、実用新案、意匠、商標などの知的財産が会社の名義なのか個人の名義なのかを確認することが必要です。他にも、遺言に、知的財産の扱いを含めておくのもいいかもしれません。

     発明者でもあったアイディアマン社長の急死は、会社にとって大きな痛手です。しかし、知的財産の名義と承継の方針を事前に整えておけば、「技術があるのに使えない」という最悪の事態は避けることができます。まずは、「自社の特許や商標などの知的財産の登録原簿を取り寄せてみる」というその小さな一歩が、技術と事業を次の世代へつなぐための、確かな備えになります。

     もちろん、本稿はフィクションに基づく解説です。実際には、家族構成や会社の状況によって対応は変わります。気になる点があれば、早めに我々弁理士に相談しておくことをお勧めします。

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